レイシャルメモリー 4-05
サーディはグレイの半歩後ろにいるフォースに視線を向け、その不機嫌そうな顔に苦笑した。
「なにか言いたそうだな」
「いや、何しに来たのかと思って」
その言葉に冷たいなぁとつぶやいたグレイを、フォースは冷ややかな目で見た。サーディはおおらかに笑い声を上げる。
「言われそうだなと思ってたよ。どうしてもフォースに会って欲しい人間が居てさ」
サーディは、まだ喉の奥でクックと笑っている。フォースはホッとしたように微苦笑を浮かべた。
「反戦運動で、なんて言い出すかと思って冷や汗が出たよ」
「ゴメン、それなんだ」
「なっ?」
驚いて目を丸くしたフォースに、サーディは肩をすくめた。笑いをこらえているグレイにフォースは眉を寄せ、サーディに向き直る。
「会えって、誰と?」
「ライザナルに戻る人。呼び戻されたらしいんだけど」
その言葉に呆気にとられ、フォースはサーディの顔に見入った。サーディは苦笑を浮かべる。
「彼は結構いい地位にいるらしいんだ。どうにかして連絡を取れるようにしておきたい。なんて思っても、その辺俺は何も理解できていないし、現実的に事を運べなくて」
「それで俺、か」
フォースは気持ちを落ち着けるように、深い息をついた。メナウルとライザナルをつなぐ糸ができることは、フォースにとっては願ってもないことだ。だが、前線で接点を作ろうと足掻いていた努力は何だったのかと思う。しかも呼び戻されたということは、その人間は今現在ライザナルと連絡が取れる状況だということなのだ。
「だけど、一体どこからそんな付き合いが……」
フォースのため息混じりの声に、サーディは肩をすくめた。
「いや、スティアなんだ」
肩越しに親指で後ろを指さし、サーディは苦笑する。フォースとグレイは、思わずチラッとスティアを見て、お互い顔を見合わせた。
「誕生会の時に、お前が会わせろって言ったそいつだよ」
サーディが向けてきた言葉に、フォースはバルコニーでのスティアを思い浮かべた。会わせろと言ったその相手は、スティアの恋人だったはずだ。話ずらそうに、それでも兵士の知り合いと説明された。
「そいつが、ライザナルの?」
「フォースに会いたいんですって」
すぐ側からの声に振り向くと、わざわざリディアの手を引いて連れてきたスティアが立っていた。真剣な眼差しをフォースに向ける。
「会ってくれるわよね?」