レイシャルメモリー 4-06


 フォースがしっかりうなずいて見せると、スティアはほんのわずかだけ頬に笑みを浮かべた。フォースは誕生会での話を思い出し、疑問に眉を寄せる。
「まさか、そいつに付いて行こうだなんて」
「思ったわ。でも駄目だって言うの。一般人ならともかく、皇女じゃ危険すぎるって。戦がなくならない限り、これ以上一緒にいるのは無理だって」
 そう言いながらスティアは、リディアの手を離して、逃げられないようフォースの両腕をしっかりつかみ、その顔を見上げた。
「ねぇ、戦なんてやめさせて。戦がなくなれば、フォースだってリディアを女神から取り返せるでしょう? じゃなきゃ私、もう二度と彼に会うことすらできないかもしれない。そんなのイヤなの」
 フォースが返事のしようもなく、何も言い返せずにいると、サーディは呆れた顔で横からスティアの腕を取った。
「お前ね、辛いのは分かるけど、問題すっ飛ばしてるだろ、それ」
「だって……」
 スティアは一度唇をキュッと結ぶと、リディアに寂しげな微笑みを向けた。
「私もシスターになろうかしら」
「え? 駄目よ、駄目、そんなコトしちゃ駄目っ」
 リディアはスティアを慌てて止めに入った。だが自分が言った言葉の意味にハッとして、不安げにフォースを振り向いた。困惑した顔でため息をついたフォースを、リディアは側に立って見上げる。
「今のはスティアの話で、私もだけど、でも……」
 口ごもってしまったリディアを、フォースは苦笑して見下ろした。訝しげに視線を合わせたサーディとスティアを、グレイは招き寄せてヒソヒソと話を始める。リディアは、フォースから目をそらすようにうつむいた。
「……、でも、ユリアさんのも、間違ってるよね」
「やっぱり聞こえてたんだ」
 フォースのため息混じりの言葉に、リディアは不安げな瞳を上げる。
「どうするの?」
「どうって、キチンと断らなきゃな」
 あっけらかんと言ったフォースに安心しながら、リディアは胸騒ぎを押さえられなかった。
「でも、なにか言ってあげなくちゃ。そのままシスターになってしまったら……」
 その胸騒ぎの正体を悟り、リディアは眉を寄せて口をつぐんだ。もしかしたらフォースはその罪悪感を持ち続けて、ユリアを忘れられないかもしれない。ユリアはずっとフォースを思い続けるのかもしれない。その思いは嫉妬に違いなかった。リディアは、伝えられない胸の痛みを、ギュッと手で押さえつけた。フォースは、黙り込んでしまったリディアを心配げにのぞき込む。

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