レイシャルメモリー 4-07


「可哀想とかって思うのか?」
 フォースと一瞬視線が合い、リディアは嫉妬心を隠すため、眉を寄せてフォースに背中を向けた。フォースは、リディアがユリアを可哀想だと思うのなら、なんとかしなければと考えを巡らせてみたが、自分にできそうなことは何も思いつきそうにない。グレイとなにやら話していたサーディが、フォースに言葉を向けてくる。
「確かに、そのままじゃ可哀想だよな」
 サーディは、腕組みをして何度かうなずいた。
「いくらなんでもフォローくらいしてやらないと」
 そのサーディの言葉を聞いて、フォースはしゃべったなとばかりにグレイをにらみつけた。グレイは肩をすくめてそっぽを向く。フォースは真剣な眼差しのサーディと目を合わせた。
「フォローだなんて、どうやって」
「どうって、なにか言ってやるとか」
「だから何を言えって」
 フォースにムッとした顔を向けられ、サーディは大げさにため息をつく。
「お前が考えろよ。彼女にとっては一番影響力があるんだし、お前のことなんだから」
「俺のことじゃないだろ、彼女自身の問題だ」
 フォースは、なに言ってんだよ、などと毒づいている。グレイは含み笑いを漏らした。
「確かにね。フォースのことじゃない。それに一番影響力があるのは、この中じゃサーディかもな」
「俺? な、なんで?」
「皇太子だから」
 グレイは、拍子抜けして頭を抱えたフォースに笑みを向けてから、絶句しているサーディの肩をポンと叩く。
「フォースが速攻で断ろうとしたのを、彼女は聞こうとしなかったんだ。フォースになんて言われようと、できる限りの努力をしてみるってタイプだな。むしろ他人に言われた方が効き目がありそうだよ」
「それって、……すげぇ」
 サーディが感心しているのを見て、フォースは首を横に振った。
「もういい。とにかく俺は断る。彼女の感覚も、そのサーディの感覚も、俺には理解できない」
 スティアがリディアの肩を抱き、ムッとした顔でフォースの前に立つ。
「白黒つけてやる必要なんてないわ。ほっとけばいいのよ、そんな女」
 オイオイと止めに入ったサーディを、ちょっと黙っててとにらみ返し、スティアはリディアの背中をフォースの方に押して寄せる。

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