レイシャルメモリー 4-08
「ずっと二人が一緒にいれば、いくらなんでも自分が論外だってことくらい、そのうち気付くわよ」
サーディは、論外、と言葉を拾って繰り返し、大きなため息をついている。
「そのうち? って……」
顔をしかめたフォースに、スティアはそうよとうなずき、リディアにねぇと同意を求めた。リディアは眉を寄せ、何も言えずにフォースを見上げる。フォースは困惑した表情を少しだけ緩ませた。
「……、なんか俺、どうでもいい気がしてきた」
「お前、いきなりそんな無責任な……」
サーディは、フォースがリディアの頬に触れたのを目にして照れながら、気が抜けたようにつぶやいた。
「失礼いたします」
廊下入り口から、低い声が響く。それぞれが振り向いた視界の中に、首位騎士の印である紺色のマントが映る。フォースの義理の父、ルーフィスだ。
「お迎えに上がりました」
ひざまずいての言葉にサーディが手を挙げて挨拶すると、ルーフィスは長身の身体を直立させて敬礼の体勢を取った。フォースより明るい茶色の髪が揺れる。フォースとバックスは姿勢を正して返礼をした。サーディはルーフィスと向き合う。
「いきなりですみません」
「いえ、私の家でよろしければ、いつでもお役立てください」
ルーフィスの言葉に、フォースは不安げに顔をしかめた。それに気付いたルーフィスが、フォースにブラウンの瞳を向ける。
「なんだ、どうせ帰ってこられないのだろう」
「でも、部屋が」
「ああ、汚いどころか荒らされていてな、まとめて捨てた。片付けるより楽だったぞ」
表情を変えることなく言ったルーフィスに、フォースは肩をすくめて、そうと一言だけ口にした。
「そ、それでいいんですか?」
サーディは目を丸くしてルーフィスとフォースを交互に見た。ルーフィスは軽く頭を下げる。
「大切なモノは全て城都にあります。ご心配なきよう」
サーディはルーフィスに苦笑して見せた。
「いや、心配ってか、親子揃ってドライだなぁと。もしかして、ヴァレスに入ってから、まだ会ってもいなかったのでは?」
「お互い仕事がありますので」
ルーフィスの言葉に、サーディは苦笑した。
「では、少しだけ時間をいただけませんか? グレイと話をしたいモノですから」
サーディは気を遣ったのだろうとフォースは思った。逆にサーディとグレイで何を話すのかが気になったが、ルーフィスはありがとうございますと頭を下げ、フォースを連れて部屋の隅に並ぶ。