レイシャルメモリー 2-02
リディアを女神から取り返すためには、戦自体を排除しなければならない。リディアが降臨を受けている今だからこそ、できることはある。スティアが持ってきた話も、間違いなくその中の一つだ。それだけのことで、何をどこまでできるか分からないが、とにかく少しでも前進したいと思う。
ティオの寝息が聞こえてきた。リディアはのぞき込んでティオが眠っているのを確かめると、考え込んでしまったフォースの腕に、そっと手を添えた。
「フォース?」
その声で視線を合わせたフォースに、リディアは一息ついてから話を切り出す。
「ソリスト、辞めようと思うの」
驚いて目を丸くしたフォースに苦笑を向けると、リディアは気持ちを確かめるように胸を押さえた。
「もうシャイア様が一番だなんて、自分をごまかせなくて。それに……」
リディアは、見つめてくる目に耐えられなくなったように視線をそらす。
「いけないことだって、よく分かったから」
リディアはため息をついて肩を落とした。フォースはうつむいてしまったリディアの頬にそっと触れた。
「リディアがソリストなのは、いけないことじゃないよ。リディアが歌うことで心を癒された人がたくさんいるだろうし」
「ホントに? そう思ってくれるの?」
顔を上げて見つめてくるリディアに、フォースは微笑んで見せた。
「でも、辞めるって言ってくれるのは、凄く嬉しい」
その言葉で、リディアの表情がパッと明るくなる。
「よかった。やっと気付いたのかとか、辞めなくていいとか言われちゃったらどうしようって不安だったの」
フォースはそれを聞いて、罰が悪そうに苦笑した。
「どっちかって言ったら、そんなことで不安がられる方が心外なんだけど」
ハッとしたように口を押さえ、ごめんなさいと謝るリディアを見て、フォースは怒ってないよと喉の奥で笑った。
廊下からのコンコンというノックの音に、フォースとリディアは目を向けた。グレイが立っているのを見て、フォースは苦笑する。
「黙って入って来いよ。ドアもないのにノックなんて」
フォースに声をかけられ、グレイはアハハと声に出して笑った。
「いやぁ、気付かれないで別世界にいられちゃ困るし。それにそんな隅っこにいられたら、こっちは疎外されてるみたいで」
「ここなら、どこから人が入ってきても見えるんだ。用心するにこしたことないだろ」
フォースの言葉に、グレイは部屋を見回した。ティオが眠っていることに気付き、グレイは声のトーンを落とす。
「そうか。キスでもしている最中に入ってこられたら困るもんな」
「そうじゃないけど。それもそうかも」