レイシャルメモリー 2-03
表情を変えずに答えたフォースと、上気した頬を両手で隠したリディアを見て、グレイはもう一度朗笑した。
「で、なに? 用事?」
フォースは、笑っているグレイに真面目な顔を向ける。グレイはポンと手を叩いた。
「そうそう、サーディがもうすぐ来るって」
グレイの言葉が終わるや否や、裏口の戸がコンコンとノックされ、サーディ様のお着きですとゼインの声がした。グレイはごまかし笑いをし、フォースは笑いをこらえながら立ち上がって扉に向かった。
「今日一日警備を仰せつかっております」
ゼインの声を聞いてフォースは扉を開け、敬礼の体勢でいたゼインに返礼を向けた。フォースはまず後ろにいたサーディとスティアを部屋に通し、ゼインも中に入れる。ゼインは扉の側で部屋の内側を向いて立った。
「フォース、ちょっと」
サーディはフォースを引っ張って階段下まで連れて行き、フォースの頭が階段の裏側にぶつかりそうなほど端に寄る。
「時間と場所、決めてきたよ。スティアには場所も時間も知らせていないんだ。スティアもそれでいいって言うから」
サーディが小声で口にする言葉に、やはりスティアがいない方が話を進めやすいだろうと思い、フォースはうなずいた。スティアはサッサとフォースが座っていた椅子に座り、グレイも加えてリディアと何事か話し込んでいる。サーディからメモを渡され、フォースはそれに目を通し、時間と場所を確認した。サーディは小声での話を続ける。
「反戦の気持ちは持っている。地位も結構なモノで、お付きの人間はいるわ、こっちに亡命でもしたら戦が激化するかもしれない程らしいんだ。でも、ライザナルは皇帝の力がものすごく強いから、彼だけではどうにもできないって」
「間違いなく反戦の意思はあるんだろうな」
「それは大丈夫だ。会ってみて驚いたよ。ホントにスティアと本気なんだから」
「驚く方向間違えてないか?」
サーディは苦笑でフォースに答え、すぐに口を開く。
「とにかく、反戦の意志を持つ騎士の名前を教えて欲しいらしい。で、できるなら行動に移」
「お茶をお持ちしました」
ユリアの声のすぐあとに、ゴンッと音がした。声に驚いたサーディが思わず身を引き、それを避けようとしたフォースが階段の裏側に頭をぶつけたのだ。
「ご、ごめん」
サーディは、かがみ込んだフォースに慌てて謝った。
「なんてことっ」
お茶の乗ったトレイを持ったままうろたえているユリアにも、サーディはゴメンと謝っている。頭を抱えてジッとしたままのフォースを、側まで来たリディアが心配げにのぞき込んだ。
「大丈夫?」
「リディア、あったよ、こんなところに」
頭を抱えたまま笑い出したフォースに、リディアはなおさら不安げな顔をした。フォースはそんなリディアに苦笑を向け、左手で頭を押さえたまま右手で短剣を引き抜き、ドンと床に突き立てる。