レイシャルメモリー 2-04


「あ、こら、何すんだ!」
 駆け寄ったグレイの目の前で、フォースは突き立った短剣の柄をガタガタと動かすと、その短剣を床の木片ごとまっすぐ引っ張り上げた。
「グレイ、この下に何があるか知ってるか?」
 訝しげなグレイに問いかけると、フォースは床の穴に手をかける。
「何がって。何かあるのか?」
 グレイは、その穴をのぞき込もうとフォースの向かい側まで行った。
「グレイ、そこにいちゃ開かないよ」
 グレイが三歩下がると、フォースは穴のまわりをぐるっと指さした。
「ここだけ四角く一直線に切れ目があるだろ。手をかける場所だってあるんだから開くはず」
 フォースは腕に力を込めたが、なかなか持ち上がってこない。一度力を抜くと、改めてもう一度引っ張った。いつの間に起きていたのか、ティオがフォースに走り寄る。
「開けるの?」
「ああ。できるか?」
「まかせて」
 ティオはフォースがどけた場所に座り込むと、子供の大きさから巨大な緑色の身体へと変化する。床に開いた穴に三本の指をかけて力を入れると、ガタッと音がして、床がずれた。
「な、なんで? こんな記録どこにも……」
 驚いたグレイに、フォースは笑みを向けた。
「ただの床下だったら大笑いなんだけど。明かり持ってきてくれる?」
 声をかけられたユリアは、お茶を持ったまま廊下に姿を消した。フォースはティオの持ち上げた床板に手をかけ、ティオと一緒に起こしにかかる。
「階段だ。結構深そう」
 横で見ていたサーディが、穴の奥をのぞき込む。フォースとティオは、その板を階段の裏側に立て掛けた。フォースのありがとうという言葉に、ティオは喜んで胸を張る。
「すげぇ、ただの床下じゃない。こりゃ何かあるぞ」
 グレイは楽しそうに言いながら、フォースの袖を引っ張った。
「なぁなぁ、入らないの?」
「自分で入ろうとは思わないんだな」
 サーディが可笑しそうにケラケラと笑いだす。
 ――中へ――
 呆れ顔をしていたフォースの表情が、頭に響く声で急に引き締まり、側にいたリディアがフォースの腕に寄り添うように触れた。ティオがおびえたように子供の姿に変化する。
「これが理由か」
 そう言うとフォースはリディアと顔を合わせ、お互いうなずき合った。グレイが二人に訝しげな視線を向ける。
「女神の声が聞こえたのか?」
「ああ。中に何かあるのは確からしい」
 駆け寄ってきたユリアから、フォースは明かりを受け取ると、リディアに向き直った。

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