レイシャルメモリー 2-05


「大丈夫か?」
 リディアは深呼吸をし、フォースと目を合わせてうなずいた。フォースはリディアの身体に腕を回して支える。
「じゃ、行こう。足元、気を付けて」
 フォースはリディアを連れて、ゆっくりと階段を降りていく。
「付いてってもいいか?」
 グレイの声に、いいよとフォースのくぐもった返事が聞こえ、グレイも階段を下り始めた。
 二階への階段と同じくらいの長さを下りきると、ドアのない小さな部屋に出た。部屋の真ん中に、机と椅子が一つずつ置いてある。フォースが手にした明かりをかざすと、壁一面の本が目に入ってきた。
「書庫、か?」
 フォースの声に、リディアはただうなずいて、壁を上から下までながめている。
「うわっ、すげぇ! フォース、お前大好きだぁ!」
 グレイは物凄い数の本を目にして驚喜し、後ろからフォースに抱きついた。
「やめろって。頼むからそういうのは」
「感謝の気持ちくらい受け取れ」
 そんなモノいらないと文句を言うフォースからサッサと離れると、本を見せてとグレイは明かりを受け取った。
 突然、フォースの腕をリディアがつかんだ。その途端、リディアの身体から虹色の光があふれ出してくる。フォースは思わずリディアを引き留めるように抱きしめた。しかし全身が光に包まれていき、フォースを見上げたその瞳は、緑色の輝きを放っていた。
「てめぇ……」
 フォースが緩めた腕から抜け出し、女神は本の壁に近づいた。女神が手を高く伸ばすと、その先にある手の届いていない場所の本が一冊だけ棚から出てきて空に浮かび、ゆっくりと降りてくる。その本を手にして机の上に置くと、女神はフォースと向き合った。ジッと見つめてくる緑色の輝きを、フォースは険しい表情で見下ろす。
「俺はあんたからリディアを取り返す。絶対にだ!」
 フォースの言葉に、女神は妖艶な笑みを浮かべ、首に手を回して眉を寄せたフォースに口づけた。フォースが睨め付けている目に映る、微笑んだような瞳から緑の光が失われていくと共に、ゆっくりとまぶたが閉じられていく。フッと力の抜けたリディアの身体を、フォースは抱きしめて支えた。
「リディア、おい、リディア?」
 フゥッと吐き出す息の音が聞こえ、リディアはうっすらと目を開いた。ハッとしたようにフォースの両腕を支えにして立つ。
「フォース? 今、急にシャイア様が……」
「そんなことより、大丈夫か?」
 心配そうにのぞき込んだフォースに、リディアは微苦笑した。
「平気、驚いただけ」

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