レイシャルメモリー 2-07


 フォースはすぐに見えなくなり、慌てたグレイは本を数冊だけ手にして後を追った。
 部屋では照れくさそうなサーディの苦笑が、フォースとリディアを出迎えた。全部聞こえていたことを知らないフォースは、その苦笑をいぶかしく思いつつ、抱えてきた本を机の端に乗せる。あとから来たグレイが、その横に何冊かの本を置いたのを見て、フォースはムッとした顔をグレイに向けた。
「それだけか? 本」
「だって、サッサと行っちゃうから」
 グレイは照れ隠しのように笑った。フォースとリディアの様子を見ていたティオが駆け寄ってきて、リディアと手をつなぐ。フォースは、控えめに笑っているリディアの顔色が悪いことに気付き、その顔をのぞき込んだ。
「少し休んだ方がよくないか?」
「でも……」
 リディアはサーディとスティアに視線を走らせた。サーディは両手のひらをリディアに向けて振る。
「あ、いいよ、いい。気にしないで休んで。フォースに用事も済んでるし」
「じゃ、コトが済んだら連絡する」
 フォースはサーディにそう言うと、リディアの背に腕を回した。
「行こう」
「お茶をお持ちしました」
 改めてお茶を運んできたユリアが、階段へ向かう二人を見て目を伏せた。フォースはそれに気付いたが、素知らぬふりで二階へと向かう。ティオもその後をチョコチョコと付いていった。スティアはユリアにあからさまに嫌な顔を向けると、グレイを部屋の隅に引っ張っていき、話を始める。
 ユリアは食卓テーブルの隅に落ち着いたスティアとグレイの前にお茶を置き、離れて立っていたサーディの前にも置いた。
「ちょっと、いいかな」
 お辞儀をしたユリアを、サーディが引き留めた。ユリアは表情を硬くして息をのんだが、お茶が二つ残ったトレイをテーブルに置き、サーディがどうぞと言って引いた椅子に腰掛ける。
「もったいないから、君も飲んだら?」
 ユリアの隣に座ったサーディは、そのトレイからお茶を一つテーブルに移した。お茶が目の前に置かれてコトッという音を立て、ユリアはハッと我に返る。
「申し訳ありませんっ、サーディ様にこんな……」
 サーディはかまわないよと苦笑した。ユリアはサーディの笑みを見て、疑わしげに視線を合わせる。
「あの、私がフォースさんに言ったこと……」
「あぁ、グレイからね。フォースは昔からそういう話題を面倒がる奴だから」
 目を伏せたユリアを見て、サーディは小さくため息をついた。

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