レイシャルメモリー 2-08


「気持ちは分からない訳じゃないんだけど、あんな脅すような言い方はよくないよ。考えるどころか、逆に嫌がられてるって分かるだろう?」
 サーディの言葉を聞いているのか、ユリアはうつむいたまま口を閉ざしている。サーディは話すのを少し迷い、思い切るように言葉をつないだ。
「俺は当人じゃないから関係ないって思うだろうけど、なんか嫌なんだよね、君の、その困らせて喜んでるみたいな雰囲気がさ」
 顔を上げたユリアと視線が合い、サーディは口をつぐんだ。ユリアは悲しげに、それでもほんの少しだけ笑みを見せる。
「困っていますか? フォースさん。ホントに?」
「いや、だから、それで喜ばれるのは……」
「ごめんなさい、でも、嬉しいです」
 ユリアは両手で顔を覆った。指の隙間から、チラッと涙が光って見える。その涙をぬぐってユリアは顔を上げた。
「覚えていてくれなかったのが悲しくて、巫女様にかないそうにないのも悲しくて。でも、どうせかなわないなら、せめて思い出してもらえるような存在になりたかったんです。あんな馬鹿もいたなって、それでもいいから……」
 泣くのをこらえているようなユリアの表情を、サーディは呆気にとられて見ていた。思いも寄らなかった考え方に、気持ちが引っ張られている。ユリアは小さく息をつくと、再び口を開いた。
「私、最初からシスターになるつもりでいました。でも、いけないことですよね。もし必要だと思われたなら、このことをフォースさんに伝えてくださっても……。失礼します」
 ユリアは立ち上がり、飲まなかったお茶をトレイに乗せようと手を伸ばした。その腕をサーディがつかむ。
「ちょっと待って」
 ユリアのハッとした様子に、サーディはつかんだ手を慌てて引っ込めた。
「あ、ご、ゴメン」
「いえ……。まだ、何か」
「いや、もし君がフォースに嫌な奴だって思い出されたら、痛くないか? 嬉しいんじゃなくて、痛いんじゃ……、え?」
 ユリアの瞳からボロボロと涙がこぼれてきて、サーディは言葉に詰まった。かける言葉を見つけられないうちに、ユリアは廊下に駆け込んでいき、サーディはユリアの後ろ姿を茫然と見送る。
「泣ぁかした」
 スティアがボソッとつぶやいた。
「泣ぁかした」
 スティアを振り返ったサーディに向かって、グレイはスティアの声色を真似て言い、苦笑して肩をすくめる。
「お前ら!」

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