レイシャルメモリー 2-09


 サーディをチラチラと見ながら、スティアとグレイは顔を見合わせ、声を殺して笑った。サーディがイライラをつのらせる。
「やかましいっ!」
 大声で怒鳴って、サーディは二階への階段に向かった。登り始めようとすると、グレイがオーイと声をかけて引き留める。
「伝えるのか?」
「そんなの……、わからねぇ!」
 ムッとした顔で言い返すと、サーディは二階へ向かった。
 二階へ上がり廊下を見ると、バックスとアリシアがリディアの部屋の前で、心配げになにやら話をしていた。サーディに気付いたバックスが敬礼を向ける。
「サーディ様」
「え? サーディ様?」
 驚いたアリシアがサーディと向き合って深々と頭を下げた。バックスはアリシアだと紹介し、サーディは同じように頭を下げて挨拶を返す。
「始めまして。何度かフォースに聞いたことがあります。四歳上の姉みたいな人だって」
「あ、そ、そうですか」
 アリシアは引きつったように笑うと、どうして歳まで言うかなとつぶやき、こぶしを握った。サーディは慌てて、そうは見えませんよと言葉を継ぎ足す。バックスは作り笑いを浮かべると、サーディをのぞき込んだ。
「フォース、ですか?」
「そうだけど。どうかした?」
 不思議そうに見上げたサーディに、バックスは困惑した顔を向けた。
「いえ、ちょっとからかったら、リディアちゃんの部屋に立てこもっちゃったんですよね。ティオも一緒だから大丈夫だと思うのですが」
「からかった?」
 疑わしげなサーディに、アリシアはごまかすように笑う。
「ええ、ちょっとだけ」
「た、立てこもったって、一体……」
「リディアちゃんと部屋に入って、カギをかけちゃったんです。」
 アリシアは苦笑したが、心配なのだろう、目は笑っていない。どんなからかい方をしたんだろうと思いながら、サーディは肩をすくめた。
「護衛はフォースが仕事でやっていることですから、心配しなくても大丈夫ですよ」
 そう言いながらサーディは、俺はあんたからリディアを取り返す、という地下から聞こえてきたフォースが女神に向けたのだろう言葉を思い出していた。どちらかと言えば、フォースの行動よりも女神の降臨の方が、ずっと不徳に近いと思う。フォースにせめて思い出してもらえるほどの小さな存在になることさえ、ユリアには遠く思えても仕方がないのかもしれない。可哀想だが、ユリアの気持ちを自分が口にすることは、やはり間違いなのだろう。ユリアの涙が脳裏をよぎり、サーディは大きくため息をついた。

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