レイシャルメモリー 3-02


 左側にいた見張りの一人がフォースに気付いたのか、もう一方の兵士に何事か話しかけ、フォースの方へと駆け寄ってくる。側で見ると結構背が高い。フォースはその笑顔に見覚えがあった。ヴァレスに入る時にフォースが噂通りの人間だと言い、買い被りすぎだと否定しても笑顔を崩さずに見ていた兵士だ。
「あなたは。あなたが?」
 疑わしげに目を細めたフォースに、兵士はヴァレスの門の前で見せた優しそうな笑顔を向けた。
「ご案内します。まだコトを大きくするわけにはいきませんでしょうから」
 コトが大きくなって困るのは、この兵士の方のはずだ。だが兵士の言った言葉は自分に向けられているように聞こえ、フォースは顔をしかめた。振り返ると、もう一人の兵士はこちらを気にする様子もなく、見張りを続けている。
「気になりますか? 彼は私とは違って、最初からメナウルの兵士ですよ」
 変わらない笑顔で兵士が口にした言葉に、フォースは疑問の目を向けた。兵士は軽くお辞儀をする。
「私はジェイストークと言います。ライザナルの諜報部の者です」
 それだけ言うと、兵士は防壁の方へと進んでいく。フォースはそれに従った。
 ライザナルの諜報部と聞き、フォースはうんざりした。実際どれだけの人間が入り込んでいるか聞いてみたくなる。だがそれは今回話し合うこととは違う。こちらからも余計なことを言う必要が起こらないよう、話は広げない方がいいと思った。
 小さめの家々と防壁にはさまれた細い道に出て、ジェイストークはチラッとフォースをうかがい、そのまま壁に沿って歩き出す。
「あなたに会っていただきたいのは、ライザナル皇帝クロフォード様の第二王子、レクタード様です」
 王子と聞いて、フォースは当然のようにサーディを思い浮かべた。サーディの場合は、街に出ることすら制限され、ヴァレスに来たのさえ初めてだ。ましてや敵国までなど、微塵も考えられない。
「そんな立場で、よくメナウルまで」
 半ば呆れたようなフォースの声に、前を行くジェイストークは、振り向かずに肩をすくめた。
「第一王子もメナウルに」
「来ているんですか?」
 思わず驚いて返したフォースの言葉に、ジェイストークは苦笑を向ける。
「こちらは不可抗力なのですが」
 完璧な笑顔が崩れたその表情に、フォースは顔をしかめた。
「というと、事故か何か?」
 眉を寄せたフォースに、ジェイストークは歩みを止めて向き合う。
「あなたがライザナル皇帝クロフォード様の第一王子、レイクス様であらせられます」

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