レイシャルメモリー 3-03


 聞き返そうと発したはずの言葉が、声にならなかった。言葉の意味が飲み込めずに、フォースはジェイストークの顔を茫然と見つめる。
「あなたの歳を伝え聞き、調べさせていただきました。特異な紺色の瞳を持ち、歳まで合うなど、そうそうあることではないでしょうから」
「何を言っているんだ? 俺が、何だって?」
 ジェイストークの言葉がフォースの思考を奪うように通り過ぎていき、何も考えられなくなる。耐えられずにフォースは視線をそらした。ジェイストークは、そんなフォースの態度に構わず、言葉をつなぐ。
「クロフォード様と、エレン様との間にお生まれになった、王位継承権一位のレイクス様でございます」
「クロフォード? 母との……?」
 フォースは、ジェイストークがゆっくりと口にした名前を、ゆっくりと繰り返した。だがパニックを起こしているフォースには、実感も違和感も、どちらも少しも湧いてこない。
「いきなりな話で申し訳ないのですが、事実なんです。これから会っていただくレクタード様は、レイクス様の弟君にあたられる方です」
「俺は今日、反戦運動の話を……」
 自分が極度の混乱状態にあることを、フォースは自分の発した言葉で悟った。口をつぐんだフォースに、すべてを理解しているような笑みを向け、ジェイストークはうなずく。
「ええ、レクタード様とは、ぜひその話をしていただきます。すぐ先ですので、こちらに」
 ジェイストークは軽くお辞儀をすると、またフォースに背を向けて歩き出した。
 フォースは前を行くジェイストークの背を見ながら足を進めた。話をするのは結構な地位の人間だと、サーディが言っていたのを思い出す。さっきの話が本当なら、自分も話し相手と同等の、いや、それ以上の地位なのだ。しかも、母のエレンもそれ相応の身分ということになる。母には何かにつけて強くなりなさいと言われ続けていた。それはまさかこの時のためか。それとも、もっとこの先に何か望んでいたのだろうか。
 道端の木に三頭の馬がつながれ、その向こうに見え隠れしていた人影が、こちらに気付いて向き直った。ジェイストークが軽くお辞儀をすると、その青年は軽く手を振って返してくる。彼がレクタードなのだろう。歳や背丈はほとんどフォースと同じほどで、まるで自らが光を発しているかのような金髪が緩やかな風になびいている。近づくに連れて整った顔立ちや薄い水色の瞳がハッキリ見え、その呆れるほどの典雅な雰囲気にフォースは思い切りため息をついた。
 側まで行き、ジェイストークは青年に頭を下げた。青年はジェイストークにありがとうと言葉をかけ、フォースと向き直る。
「私はレクタード、あなたの弟です」

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