レイシャルメモリー 3-05


「私たちと一緒にライザナルへ戻ってください」
 真剣な顔のジェイストークに、フォースは首を横に振って見せた。
「無茶なことを言っていると思わないか?」
 問いを向けられて、レクタードは控えめなため息をつく。
「無茶は承知の上でお願いしています。エレン様とあなたがさらわれてからずっと、未だに父はあなた方に固執しています。あなたが戻らない限り、父にとってメナウルは敵国でしかありません」
 レクタードの言葉を聞き、フォースは忌々しげに歯噛みした。
「今さら戻れって? 固執するくらいなら、最初から調べるなり探すなり、できたはずだろう」
 今度はレクタードが不機嫌そうな顔になる。
「行動は起こしているんです。だが正式に送った使者は殺害され、あなた達が住んでいるだろうドナには毒まで」
「待てよ。メナウルにライザナルの使者など来た記録はない。それにドナの事件で実行犯だとつかまったのはライザナルの人間だ。それに母はライザナルの兵に追われて逃げてきたところを父が救ったと聞いている」
 フォースの反論を聞き、レクタードはため息をついた。
「ルーフィスって方は、今は首位の騎士なのでしょう? そんなモノをもみ消すことくらい、国なら簡単に」
「メナウルはそんな国じゃない」
 フォースが言い捨てた言葉に、レクタードは苦笑する。
「じゃあ、どうしてエレン様は殺されたんです? ドナで生き残っていられたら困るからじゃないんですか?」
「だったら、俺が生き残っているのはどうしてだ? だいたい知られて困ることなら、死んだその場に墓なんて作ったりはしないだろう」
 苦々しげなフォースに、レクタードは肩をすくめた。
「まいったな。本当にあなたは根っからメナウルの騎士なんですね。カケラも疑おうとしない。スティアが言っていたとおりだ」
 レクタードの顔に、穏やかな笑みが浮かぶ。フォースはため息をついた。
「どうしてスティアと知り合ったんだ?」
「最初は王家を知るために、単に利用しようと思ったのですが。でも、惹かれてしまいました。彼女はおおらかで明るくて、とても強い女性ですね」
 レクタードが並べた言葉に一瞬面食らってから、フォースはなんとかうなずいた。
「え? あ。そういう言い方をすれば、そうだな」
 そういう言い方って、と、ムッとした顔でつぶやいたレクタードに、フォースは思わずゴメンと謝って口を押さえた。レクタードはため息をつくと、声を潜めて笑っているジェイストークを気にしながら、軽く咳払いをする。

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