レイシャルメモリー 3-06
「スティアには感謝してくださいね。彼女のことがなかったら、あなたを殺して帰る方が、私にはよっぽど建設的だったんですから」
いくら言葉を繰り返されても、フォースには取り繕っているようにしか聞こえない。フォースはティオを探そうとし、すぐ側の木につないである馬三頭のうちの一頭にまたがっているのを見つけて目を丸くした。ティオはフォースに向かって、嘘は言ってないよとケラケラ笑ってみせる。フォースの不審な行動に、ジェイストークが馬を振り返った。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでも」
引きつった笑いを浮かべながら、フォースはレクタードとジェイストークにはティオが見えず、声も聞こえていないのだと悟った。
フォースの煮え切らない態度にイライラしたのか、レクタードはムッとしたようにフォースと顔を突き合わせる。
「とにかく、あなたが戻らない限り戦が終わることはあり得ないんです。王位継承権一位なのだから、完全に警護も受けられます。危険はありません」
「帰れの一点張りだな」
「そうしてくれないと、私はスティアと会うことすらままならないんです」
レクタードの真剣な表情に、フォースは戦をやめさせてと言ったスティアの顔を思いだした。確かにリディアを女神から取り返すためにも、戦は邪魔なのだ。だが、リディアを取り返すからといってライザナルに行かなければならないのでは、本末転倒な気もする。
「もしも、もしもだ。ライザナルに行ったとして、戦をやめさせることは可能なのか?」
フォースの問いに、レクタードは微かに眉を寄せた。
「父のいきどおりは、何割かは解消されるでしょう。もともとシェイド神が起こした戦ですので、そのあたりをなんとかしないとなりませんが」
「なんとかって、神をか?」
考えられない言葉に、思わず声を大きくしたフォースに、レクタードは当然とばかりに薄い笑みを浮かべた。
「ええ。あなたに来て欲しいのは、それもあるんです。紺色の瞳を持つ者は、神と対話ができると言われていますので」
「対話だって?」
シャイア神の意思が頭に響いてくる嫌な感覚を思い出して、フォースは眉を寄せた。対話どころか一方的に意思を伝えてくるだけで、こちらの言葉を聞いているのか分からない。返ってきたのは、フォースにとってはふざけているとしか思えないキスだけだ。これが対話だとは間違っても認められない。
「できないんですか?」
レクタードが不安げにフォースをうかがう。フォースは疑わしげな顔でレクタードを見返した。
「いったいどこからそんな話がでてくるんだ?」
「どこって」