レイシャルメモリー 3-07


 説明しようとしたレクタードを、ジェイストークは肩を叩いて止めた。
「それは追々。レイクス様がライザナルに戻られてからでも、ゆっくりお話ししますよ」
 ジェイストークは、フォースが胡散臭げな顔をしたのを見て、邪気のない笑顔を向ける。
「そんなことより、反戦運動の話です。私たちは誰が反戦の気持ちを持っているかまったく知らないんです。なにせ、レイクス様にお会いしたのが最初の一歩なのですから」
「今ここで名前を言えと?」
 フォースが向ける疑いの目に、ジェイストークは苦笑した。
「いいえ。こんな話の後ですし、信じていただけないのなら仕方がないと思っています。気が変わりましたら、タスリルという薬売りがヴァレスにいますので、そちらから連絡していただければありがたいのですが」
「そいつも諜報員なのか」
 フォースは、またかとうんざりしてため息をついたが、ジェイストークは首を横に振る。
「いえ。今はメナウルの人間です。ですが、もともとはライザナルに住んでいた人間ですから、話を通す方法がないわけではないと言っていました。レイクス様に来ていただけるのなら、タスリルを危険にさらして仲介に使う必要もないのですが」
「どうしても話をそっちに持っていきたいんだな」
「当然でしょう。反戦運動のことを差し引いても、レイクス様を連れて帰ることは大きな勲功になりますからね」
 笑顔のジェイストークに、そういうことかとフォースは苦笑を返した。それが手柄だと聞いたことで、今までの話に信頼の度合いが増えるのを感じて、フォースは妙に可笑しかった。
「悪いけど、今は黙ってライザナルに帰って欲しい。冷静になって考えてみたいし、一度キチンと父から母の話を聞きたいんだ」
 力の抜けた苦笑を返したフォースに、ジェイストークは丁寧にお辞儀をする。
「分かりました。ですが、父ではなくルーフィス殿と、ですね。レイクス様の父上はクロフォード様以外にはいらっしゃいません」
 ジェイストークの肩に手をかけ、レクタードは押しのけるように前に出た。
「あなたがここにいるのは、最初から間違いなんですよ。なのに」
「レクタード様」
 ジェイストークは、フォースが息を飲んだのを見て、レクタードの言葉を遮った。不満げなレクタードを促し、ジェイストークは木につないであった馬の手綱を解いて、一緒に道まで馬を連れ出す。フォースは平静を装って、ティオが乗っている一頭だけ寂しげに残った馬の首をなでた。
「こいつは連れて行かないのか?」

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