レイシャルメモリー 4-03


 たくさんの明かりが灯る応接室が、廊下から明るく見えてきた。そこにティオが駆け込んでいく。
「フォースは?」
 サーディの声が廊下にまで響いた。ティオは返事をしたのかしなかったのか、いつものようにドサッとソファーに寝転がる音だけが聞こえてくる。
 フォースがリディアと部屋へ入ると、サーディ、スティア、グレイ、ルーフィスが一斉に視線を向けてきた。フォースはその視線の中で、廊下脇にいた神殿周辺警備であるゼインの敬礼に返礼する。サーディがフォースに駆け寄った。
「よかった、戻ってくれて。ついさっき、スティアに話を聞いたんだ。お前のことだから、戦をやめさせるとかってサッサと行っちまうんじゃないかって、……、あ」
 フォースと目を合わせたまま、サーディは口をつぐんだ。フォースが訝しげに眉を寄せると、サーディは目で笑わない苦笑をする。
「お前、じゃマズイか?」
 その言葉で、フォースは身体の力がすべて抜けるようなため息をついた。サーディの後ろで、グレイが堪えきれずに笑い出す。
「じゃあ、なんて呼ぶんだよ」
「そりゃ、ええと、なんだ……、どうしよう」
 言いよどんでいるサーディに、フォースは迷惑そうに首を振った。
「そのままでいいって。いきなり態度を変えられたら、免職でもされた気分になっちまう」
「クビにはしないけど。って、そういう問題じゃないだろうが。どうするつもりだ?」
 顔を突き合わせてくるサーディの胸を、フォースは両手で押し返す。
「どうもこうも。少しは考える時間をくれよ」
 フォースの返事に、お茶を手にし、食堂の椅子に座ったままのスティアが大きく息を吐き出した。
「考えるだなんて信じられない。次期皇帝だなんて滅多にない幸運でしょう? メナウルにいたって、クエイドみたいな人に捕虜にされかねないわよ」
 捕虜という言葉に、サーディは目を丸くして顔色を変える。
「スティアお前、何言ってんだ。メナウルにいる限り、フォースは二位の騎士なんだぞ? まさか、ベラベラと話し歩いてるんじゃないだろうな」
「ひどいわ。さっきココで言ったのが初めて。私だってフォースがそんなことになったら困るのよ」
 スティアは机のお茶に手を伸ばした。少しだけ口に含んだぬるくなったお茶を、こみ上げてくる焦りや悲しみといった感情と一緒に飲み込む。戦がなくならないと、恋人であるレクタードに会うことも叶わないのだ。スティアは、フォースがまだココにいることさえ、辛く感じていた。

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