レイシャルメモリー 4-04
「捕虜か。クエイド殿なら、言いそうだよな」
フォースはため息のようにボソッとつぶやいた。
「そんなこと、させるかよ」
サーディは吐き捨てるように言うと、フォースと向き合う。
「逃げるなら今だぞ」
サーディの言葉に、フォースは眉を寄せて唇を噛んだ。サーディはフォースの肩に手を乗せる。
「城都の城にかくまうこともできるし、南に逃げてしまえばもっと安全だ」
そうサーディは言い切ったが、フォースは首を横に振った。メナウルの中にも敵はできてしまうのだ。やはり、今自分にとって安全な場所など、どこにもないと思う。
「かくまうってのが、ライザナルにとっては捕虜なんだ」
フォースはサーディの手をそっと払い、苦笑を向ける。
「それに、……、逃げるのは嫌だ」
サーディは何も言えず、フォースから顔を背けた。
「行ってくれるの?」
スティアの声のトーンが幾分高くなり、その言葉を聞いたリディアが視線を落とした。フォースは、リディアに伸ばしたい手を握りしめ、気持ちを抑える。
「近いうちに交換条件を提示してくる。話はそれからだ」
スティアは、そう、とだけ答え、机のお茶に目をやった。両手で包んだカップの内側で、お茶が細かな波を立てている。スティアは、自分が持っている辛い気持ちと同じモノを、リディアとフォースに強いている自分が嫌だった。でも、最後に別れた時のレクタードの悲しげな笑顔が胸から離れないのだ。フォースがライザナルに行ってくれなければ話が進まないと思う気持ちが、どうしても先に立ってしまう。きっとリディアにも嫌われるだろう、そう思うと、自分への嫌悪感がまたトゲになって突き出てくる。それでも、レクタードを知らなかった自分には、もう戻れそうにない。
神殿裏の扉をノックする音が、重々しい沈黙を破った。
「バックスです」
その声に、壁を背にして動かなかったルーフィスが扉を開けた。失礼しますと敬礼をして入ってきたバックスは、思わず部屋の沈んだ雰囲気を見回す。そのなかでフォースとだけ目が合った。フォースはバックスに苦笑を向ける。
「あぁ、そうか。もう遅いもんな」
フォースはひとりごとのように言うと、リディアの背に手を当て、顔をのぞき込んだ。リディアも何も言わずにうなずく。状況にうろたえながらも、バックスはルーフィスに敬礼を向けた。
「夜間の警備に入ります」