レイシャルメモリー 4-06
明かりに近いベッドの隅に腰掛け、フォースはエッグをじっくり眺めた。球形をした細工に目立たぬよう隠された蝶番を見つけ、反対側の細工に爪をかけて軽く力を入れる。パチっと音がして、エッグは簡単に開いた。その内側には、懐かしい母の顔が細密に描かれ、隣にはレクタードの持っていたエッグの肖像と服装が違うだけのクロフォードがいる。その左には、何度か見たことのあるライザナル王家の紋章が、金の荘厳な光をまとって浮き彫りになっていた。
ドアにノックの音がした。フォースは慌ててエッグを閉じて立ち上がり、どうぞ、と声をかけた。ルーフィスが入ってくる。
「お二人にはお待ちいただいている」
ルーフィスのまっすぐな視線に、フォースは、そう、と息を吐き出した。フォースがエッグをもう一度開けてルーフィスに差し出すと、ルーフィスは一瞬迷ったように手を止めてから受け取り、その小さな肖像画に見入った。
「間違いじゃないみたいなんだ」
フォースはベッドに座り直し、エッグを見つめたままのルーフィスを見上げた。ルーフィスは眉を寄せ、目を細める。
「会ってすぐに聞いていたら、対処も違っていただろうが……。過ぎたことだな」
ルーフィスはエッグを閉じると、フォースに手渡した。
「反目の岩は知っているか?」
ルーフィスはフォースに質問を投げながら隣に腰を下ろした。フォースはすぐ側の顔を振り返る。
「本来の国境の真上にある、真っ二つに割れたデカい岩だろ? 対立の象徴とかって言われてる」
「そう、エレンとは、そこで会ったんだ」
その言葉に、フォースは思わずエッグを握り締め、そのこぶしを見つめた。ルーフィスは、フォースの横顔を見ながら口を開く。
「ちょうどその岩の場所に通りかかった時、まだ小さなお前を抱いたエレンがそこにいた。ガタガタと震えていて、ココはどこかと聞かれたが、答える間もなくライザナルの鎧をつけた兵が四人現れた。エレンを斬ろうとするそいつらから逃れ、ドナに連れ帰った」
「ライザナルの鎧をつけた兵……?」
フォースはエッグを見つめたまま繰り返した。ルーフィスはうなずく。
「メナウルの顔見知りではなかった。だからといって、ハッキリとライザナルの人間だとも言い切れんが。エレンも、自分から逃げてきたのか、誰かに逃がされたのか分からんが、アテはないがメナウルに住みたいのだと、何度も言っていた。見たことのない目の色だ、ライザナルかシアネルかパドヴァルか、とにかくメナウルの人間ではないと思った」
メナウルの人間ではない。ルーフィスもそう思っていたのかと思うと、フォースは可笑しかった。生まれなど、どこだろうと変わりはないと思っていた。ライザナルで産まれたのではないかと、何度も考えたことがある。それ自体は辛くもなんともなかったのだが。
「まさかここまで位の高い人間だったとは、思いもしなかった」
ルーフィスの続けた言葉に、フォースは苦笑を漏らした。