レイシャルメモリー 4-08


「必ず?」
 顔を上げて聞き返したフォースに、ルーフィスがうなずく。
「そう、必ず、だ。何を根拠にそう言ったのかは分からんが、エレンがあんなことになって予言が当たった時には、まだ五歳だっただろう。やめさせるべきか否か随分迷ったものだ。今となっては、よかったのかもしれん」
 ルーフィスはフォースに微笑を向けると、部屋を出て行った。
 フォースは大きく息をついた。何か自分の気持ちにかかった靄が気になって仕方がない。フォースは立ち上がると、エッグをベッドの上に放って部屋を出た。リディアの部屋の前にいるバックスと目が合う。
「どうした?」
「いや、風に当たりたくて」
 そうすれば、いくらかでも気が晴れるだろうかとフォースは思った。まだ自分を見ているバックスに手を振り、フォースは左奥にあるドアを通って鐘塔の鐘へと続く石の階段を登り始めた。小さな明かり取りの隙間から、青い月の光が差し込んではいるが、ほとんど真っ暗だ。それでも何度も登って慣れている階段なので苦にはならない。
 母が何かにつけて強くなりなさいと言っていたのは、父に聞いた母の予言らしきモノと何か関係があるのだろうか。母は何を思い、何を考えていたのだろう。剣を取るようになると言っていたことと、強くなれと言われていたことは、やはりつながりがありそうな気がする。
 気になるのはレクタードが口にした、紺色の瞳を持つ者は神と対話ができると言われているという言葉だ。もっと詳しく聞きたかったのだが、ジェイストークに止められてしまった。母も紺色の目をしていた。というか、母が紺色だから自分も紺色なのだが。母がそうだったとしても、その能力は自分にも受け継がれているのか。神と対話をして、戦をやめさせるなんてことは、本当に可能なのだろうか。
 そして、自分の存在とは、いったい何なのか。
 石の階段を登り切ると、鐘が吊された四角い場所に出た。四方の石壁には、角柱をアーチで結んだ背の高い窓のような空間が並んでいる。その一つ一つの空間から等間隔に月明かりが差し込み、あたりを青く照らす。右側には触れるほど近く鐘があり、今はただ静かに金属の肌を、時折吹くひんやりとした夜風にさらしていた。
 フォースは北側の壁に近づき、遠くの景色に目をやった。月明かりのせいでドナへの道が見える。レクタードとジェイストークは、もう既にドナに着いているだろう。母の墓のある村だ。
 知りたいことが山のようだ。その答えはライザナルの中にある。父が言っていた取引で、その答えを得ることは難しい。すべてを知るため、戦を止めるためには、やはりライザナルに行かなければならないと思う。だが、理屈では分かっていても、感情が言うことを聞こうとしなかった。

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