レイシャルメモリー 4-09
自分に必要なのは考えることではなく、メナウルを、そしてリディアを、あきらめるための時間なのだろうか。いや、いくら時間をかけても、あきらめるなんてできない。リディアに悲しい思いはさせたくないし、自分にもリディアは必要なのだ。だとしたら、全部を手に入れるためにはどうすればいいのか、それを考えるしかない。
気持ちが空回りしている。このまま悩み続けても、打開策は見つからないだろう。交換条件の提示があれば、何か道が見つかるだろうか。せめてそれまでは今までと同じに過ごしていたい。
フォースは喉元のペンタグラムに触れた。リディアを自分の手で幸せにするには、どうしたらいいのだろう。ライザナルに行っても行かなくても、一緒にいるだけで被害が及ぶとしたら。ライザナルへ行き、戦を止め、皇位を継がずにメナウルに戻るしか手はない。だが、固執していると言われる皇帝を相手に、どれだけの時間がかかることか。
「フォース……?」
背中からかけられたリディアの声に息を飲み、フォースは振り返った。ロウソクの小さな炎がリディアを暖かな色に照らしている。フォースの胸にリディアへの想いが痛いほどわき上がってくる。
「どうしてここに」
「バックスさんが気になるから行けって。ここを教えてくれて」
リディアが階段への入り口から鐘の側にほんの少し足を踏み出した途端、少し強い風がリディアの手から明かり取りの炎を奪っていった。足を止めてなびく髪を押さえ、風が通りすぎるのを待つ。フォースはリディアの側まで行くと、ロウソクを受け取って足下に置いた。
「ごめんなさい。邪魔になると思ったんだけど、でも……」
その不安げな声に、フォースは苦笑した。
「邪魔になんかならないよ。いつでも側にいて欲しいと思っているのに」
フォースはリディアを胸に抱き寄せた。鎧を着けていない身体に、リディアの柔らかな温もりが伝わってくる。どんなことがあっても、リディアを失いたくない。でも、どうしたらそれが叶うのかが分からないままだ。いっそのこと、このまま石になれたらとも思う。でも、こんな不安な気持ちを抱いたままでは、やはり幸せとは言えないだろう。
フォースの顔をうかがおうと、リディアはゆっくりと顔を上げた。リディアに微笑みを残して、フォースは北の景色に視線を移す。
「ここに来たことはある?」
フォースの問いに、リディアは首を横に振った。フォースはリディアの背中を支え、一緒に北側の壁に戻る。
「綺麗……」