レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第1部4章 事実の深奥
1. 受容と抗拒 01


 レクタードは、馬の手綱を兵士に手渡した。敬礼を受け、簡単に返礼してジェイストークを見やる。ジェイストークは兵と何か笑いをかわしてから、レクタードの元へと戻ってきた。
「行きましょう」
 青い月の光に照らされた大通りを指し示したジェイストークに、レクタードはうなずいた。ドナの村にはあまり大きな建物はないが、その中でも一番立派な屋敷を宿泊に当ててあるらしく、ジェイストークはその方向にむかっている。
「無理にでもフォースを連れてきたかったな」
 レクタードは浮かない表情でつぶやいた。ジェイストークは一歩待ってレクタードと肩を並べる。
「その呼び方は」
「あ、つい。スティアとはその名前で話していたからな」
 そう言うと、レクタードは肩をすくめた。
「無理にでも連れてきたいというのは分からないではないですが。だいたいは予定通りですので、ご心配はいりませんよ」
 ジェイストークの言葉に、レクタードは眉を寄せてため息をつく。
「そうなんだけど、気が急いてしょうがない。スティアのことも、早く父に伝えたくて」
「反対される覚悟が、できていらっしゃるんですね」
 ジェイストークが笑顔で返した言葉に、レクタードは苦笑した。
「ヤなこと言うなぁ。反対されるのが分かっていても怖いよ。なにを言っても許してくれそうになくて。でも、黙っていては、なにも解決しない」
 難しい顔でうつむいたレクタードを、ジェイストークは不謹慎だと思いながらも微笑ましく思っていた。レクタードは生まれてこのかた皇帝である父に不平不満を漏らさず生きてきた。それだけ皇帝を尊敬しているのか、自分を殺して生きてきたのかは分からない。どちらにしても、皇帝にとっての理想からはみ出すことは、レクタードを成長させるに違いないと思う。
「反戦の意志を持つ騎士の名前も聞けなかったから、単独で行動を起こさなきゃならないってのもキツイな。できるのは表明くらいだろ」
「なんでも最初はそんなモノですよ。でも、警備が整うまでは待ってくださいね」
 ジェイストークの返事に、レクタードは再びため息をついた。ジェイストークはレクタードに笑みを向ける。
「まぁ、こちらが名前を聞けなかった分、レイクス様を引っ張ってきやすいですし。そんなに気落ちすることはありません。とりあえずタスリルには、接触があれば連絡をするように言ってあります。ウィンにも話を通しました」
「ウィン?」
 レクタードが向けた水色の瞳に、ジェイストークはハイとうなずく。
「女神が降臨したと勘違いして聖歌ソリストを襲い、レイクス様につかまった諜報員です」
「使えるのか?」
「さぁ? どうでしょうね。もし何かあったら困ると思ってフォースがレイクス様だと伝えただけです」

1-02へ


前ページ 章目次 シリーズ目次 TOP