レイシャルメモリー 1-02


 その返事に、レクタードは苦笑して肩をすくめた。
「ジェイもフォースを気に入っているみたいだな」
「レイクス様、です」
 はぐらかした返事のあと、向かっていた建物の扉が開き、中からアルトスが顔を見せた。ジェイストークは軽く手を挙げてアルトスに挨拶を送りながら、レクタードに言葉を向ける。
「ウィンも私と同じ隊に所属していたらしいですが、その隊のゼインという騎士は、レイクス様のことを色々と扱き下ろしていたみたいですよ」
「そりゃ、そういう奴もいるだろうさ。でもそれ、興味あるな」
 アルトスとドアの向こう側にいる騎士三人は、ひざまずいて頭を下げている。レクタードは歩調を変えずにアルトスのところまで行った。
「戻ったよ。なんてコトより、重大な知らせがあるんだ。レイクス様が見つかった」
 アルトスはハイとだけ答え、ただ頭を下げたままでいる。レクタードは、なぜアルトスが驚かないのだろうかと、訝しげにジェイストークの顔を見上げた。
「フォースという騎士がレイクス様だろうことは、既に伝えてあります。が、もう一つ」
 ジェイストークが向けた視線を受けて、レクタードはうなずいた。
「エレン様は、この村、ドナに葬られているようです」
「承知致しました。すぐに掛からせていただきます」
 アルトスはレクタードの声に答えると、スッと立ち上がった。レクタードは驚いた顔をアルトスに向ける。
「すぐって、こんな夜に墓場で仕事?」
「今晩は充分に月明かりがあります。レクタード様はお休みになってください」
「明日になってから伝えた方がよかった?」
 レクタードが向けた微笑みを、アルトスはいいえと否定し、屋敷の中を示してレクタードを通した。待っていた騎士の一人が、レクタードを案内していく。アルトスは、残った二人の騎士を呼び寄せた。
「陛下に使いを出せ。それと準備だ。私は先に行っている」
 アルトスの命令に返礼して、一人の騎士は屋敷の中に姿を消し、もう一人は外に駆けだしていった。
 その様子を見ていたジェイストークは、あきれたように苦笑した。月明かりなど無くても、アルトスならすぐに行動を起こすだろうと思う。
「どこにあるのか分かっているのか?」
「調査済みだ。墓地の北側の隅にある。掘り返してから違ったでは夢見が悪いからな。待っていた」
「用意のいいことで。付き合うよ」
 ジェイストークは、声を潜めて笑いながら、墓地へと歩き出したアルトスに続いた。
「レイクス様に、お会いしてきたよ。エッグも持っていらっしゃるのだろう、レクタード様のエッグを見て動揺しておられた」
 アルトスの脳裏に、できあがったばかりのサーペントエッグを手にし、苦渋に満ちた表情のエレンが浮かんだ。

1-03へ


前ページ 章目次 シリーズ目次 TOP