レイシャルメモリー 2-02


「でも、もしも何かあった時、……、目印になるんでしょう?」
 身分証明などと言ってしまったら、ゼインがどう思うか分からない。そう思ってリディアは言葉を変えた。フォースは、どうだろうと肩をすくめてみせる。
「そうかもしれないけど、結局半分は敵かもしれないんだし」
 このエッグを持っていれば、フォースが皇帝クロフォードの息子であるレイクスなのだと、ライザナルの人間なら分かるのかもしれない。だが、その相手がレイクスにとっての敵か味方かまでは分からないのだ。どちらでも同じことなら、象徴でしかないモノを持っていたくはないとフォースは思っていた。
食い入るように本を見ていたグレイが、フォースに向かって手招きをする。
「ちょっと、こっち」
 グレイは自分の右前の椅子を示し、読んでいた本を押しやった。フォースは、リディアとの話を中断し、その席、リディアの左前まで行くと、椅子の後ろに立ったままでグレイが指し示した部分に目を落とす。そこには地下の書庫で見せられた詩の文字が並んでいた。
「これ、あの時の」
「調べてみようとは思っているけど、とりあえず覚えろ。わざわざシャイア様が出してきたんだ、やっぱり意味があるんだと思う」
 グレイは、立ったまま眉を寄せて文面に目を落としているフォースの顔を見上げた。
「面倒とか言うなよ。もし何かあったら、?」
 グレイの真剣な瞳と視線を合わせ、フォースは目の前の本をバタッと閉じた。
「お、おいっ、フォース?!」
 しおりとして本に挟んであった白い羽根ペンを手にし、グレイはあわてて元のページを探し始める。フォースは心配げに見ていたリディアに苦笑を向けて口を開いた。
「火に地の報謝落つ、風に地の命届かず、地の青き剣水に落つ、水に火の粉飛び、火に風の影落つ、風の意志剣形成し、青き光放たん、その意志を以て、風の影裂かん」
 グレイは、ページをめくる手を止めて唖然としている。リディアはそんなグレイを見てから、不思議そうにフォースに視線を戻した。
「覚えてるの?」
 肩をすくめてうなずいたフォースに、グレイはホッとため息をついた。
「いつの間に」
「いつって、ずいぶん昔に聞いた気がするんだ」
 フォースの言葉に、グレイは難しい顔をして再びページをめくり始める。
「ずいぶん昔? エレンさんからか?」
「母はいたけど、母じゃないと思う。男の声だったような……。でも、変だよな」
 考え込んでいるフォースを見上げ、グレイは苦笑した。
「そりゃ変だよフォース。こんな詩を知っている男がメナウルのどこにいたってんだ? しかも、5歳より前に聞いた詩を、きちんと覚えているなんて」
「でも、確かに聞いたから覚えて……。いや、それより、続きが気になって」

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