レイシャルメモリー 2-03


 詩のページに行き当たったグレイは、しおりにしていた羽根ペンで、詩の後の文を追った。
「続きなんてこと、なにも書いてないけどなぁ。ほんとにあるのか? 何か古い本と混同してるとか」
「古い本なんて、……、創世の書くらいしか読んだ覚えがないんだけど」
 フォースの言葉に、グレイは苦笑を浮かべる。
「教義か。混同しようがないだろ」
「でも、何か引っかかるんだ」
 フォースにいいかと声をかけ、グレイは口を開いた。
「ディーヴァに大いなる神ありき。神、世を7つの分身に与えし。裾の大地、海洋を有命の地とし5人に与え、異空、落命の地を創世し2人に授けん。……って、出だしの部分とは限らないか。いくらなんでも、そのままじゃないだろうしな」
 暗唱をやめて頭をかいたグレイの言葉に、フォースは左手で口を覆って考え込む。
「けど、完璧に別物でもない気が……」
「なぁ、そんな小さな頃に覚えてしまうほど教え込まれたってことは、それだけ大事だと思ってた奴が、女神以外にも居たってことだろ?」
 グレイは真剣な視線をフォースに向けた。その視線を受け止めて、フォースはますます眉を寄せ、頭を抱え込む。
「そうなのかもしれない。あれは、あの声……。いつだ? どこでだったろう?」
「ルーフィス様は? もしかしたら覚えていらっしゃらないかしら」
 リディアは、本の詩に目を落としたまま考え込んでしまったフォースの腕にそっと手を添えた。
「お茶ですよー」
 部屋に響く声に驚き、リディアは手を引っ込めフォースは顔を上げた。手ぶらのアリシアが、お茶を乗せたトレイを持ったユリアの前に立ち、神殿に続く廊下から入ってくる。
「先導しているだけで、でかい態度だな」
 ため息をつくようにつぶやいたフォースのところへ行き、アリシアは顔をつきあわせた。
「何ですって? 態度なら私よりあんたの方がでかいでしょ。そうよね? そこの騎士さんっ」
 話を振られ、思わずハイと答えて口を押さえたゼインをチラッと見やり、フォースはアリシアに視線を戻す。
「立場が違うだろうが。ゼインは一応直属の部下なんだから」
「だいたいその歳で二位だなんて生意気よ」
「そういう文句なら陛下に言えよ」
 二人の言い合いを尻目に、ユリアはトレイをテーブルに置いてお茶を配り始め、リディアはそれに手を貸した。
 ノックの音が響き、ゼインがハイと返事をして扉を薄く開ける。それから改めて扉を大きく開き、敬礼をした。
「ルーフィス殿です」
 その名前に、グレイ、リディアも扉に目をやった。フォースは扉まで行き敬礼で迎え入れる。ルーフィスは入室すると、簡単に返礼をしてフォースと向き合った。

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