レイシャルメモリー 2-04


「ドナにライザナルの軍が集結している」
「集結? ドナに?」
 フォースは状況を飲み込むために言葉を繰り返した。ルーフィスのフォースを見る目が細く険しくなる。
「女神が降臨していることを知っていて、それでもなお、この行動だ。一時しのぎと分かっていてのことだろう。レクタードとジェイストークだったか? 彼らに何を言った?」
 その言葉にハッとしてルーフィスから視線をそらし、フォースは二人と交わした会話を振り返った。ドナについて話したことは限られている。ドナで起こった毒殺事件のこと、そして母の。思わず息をのみ、それからフォースは口を開いた。
「母の墓が、あると……」
「それだな」
 ルーフィスは軽くため息をつく。
「集結しているわりには士気が少しも感じられないとの報告もうなずける。クロフォードが来るのかもしれないな。埋葬のし直しと言ったところか」
 フォースは愕然としてルーフィスの目に釘付けになった。なにか言わなくてはと思うものの、思考が言葉にならない。ただ棺を埋めた時の光景が、脳裏に広がる。
「村の人間もいることだし、遅かれ早かれ知られることだ」
 ルーフィスはつぶやくように言うと、フォースの横を通ってリディアの方に向かった。
「シャイア様はドナのことについて何かおっしゃっているかい?」
 立ち上がって迎えたリディアは、首を横に振る。
「いいえ、何も」
「それはよかった。こんな状況で攻防戦は避けたいからね」
 ルーフィスはリディアに微笑んで見せ、うつむいて渋面のフォースに向き直った。フォースは下に向けていた頭をさらに低くする。
「すみません」
「謝ることなど何もない。ライザナル側もシャイア様が降臨されていることを知っているのだ。いくら兵を集めても攻めてきはしないだろう」
 フォースは顔を上げてルーフィスと視線を合わせた。
「それは、そう思います。でも、母の墓が……」
「墓、か」
 ルーフィスもその風景を思い浮かべたのか、視線が一時空をさまよう。
「知られるより先にドナを取り返していれば無事だったかとも思うが、どちらにしても要求はされる。それだけの地位にいる人間だったのだから仕方がない」
 それだけの地位、その一言が、フォースの中にこだましていた。それは間違いなく自分の身にも言えることだ。ルーフィスは言葉を続ける。
「メナウルのやり方で埋葬されたままだと納得できないのだろうな。私たちがライザナルのやり方を嫌うのと同じことだ。もしも掘り返されるとしたら不本意だが、それだけ丁重に埋葬するだろう。そう気にすることではない」

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