レイシャルメモリー 2-07
フォースはバックスに向けてそう言うと、アリシアと再び向き合う。
「だから、今回のことはアリシアのせいじゃないって言ってるだろ。そんなに罪悪感を持たれても困るんだ。気にするなよ」
そう言って苦笑したフォースを、アリシアは何も言えず、ただ呆気にとられて見ていた。
「じゃあ俺、戻るから」
フォースはアリシアとバックスに手を振って、元来た廊下へと入っていった。
フォースの姿が見えなくなってから、バックスは神殿に入って扉を閉めた。アリシアは緊張が解けたようにため息をつく。
「聞いてたんでしょ。じゃなきゃ、音を立てた後に扉を開くなんてことしないわよね」
「ご明察。悪い、邪魔した」
言い捨てたようなぶっきらぼうな言葉に、アリシアは含み笑いをして首を横に振る。
「ありがとう、助かったわ」
「助かった?」
「ええ。きっともの凄い誤解してるでしょうね」
アリシアはバックスに苦笑を向けた。バックスは眉を寄せてその苦笑に視線を向ける。
「告白して逃げられたってのは誤解か? と言っても、フォースは全然分かってないみたいだったが」
訝しげなバックスの顔を見て、アリシアは吹き出すように笑った。
「そう、それ。ムキになっちゃったわ。私が冷静でなくちゃ、あんなボケに微妙な話を理解させられるわけがないのに」
笑ってはいるが寂しげな瞳をしたアリシアを、バックスは横目で見ている。
「フォースが騎士に成り立ての頃にね、私も職場で軽傷の騎士にからまれているのを助けられたことがあるのよ。お礼、身体で払おうと思って」
ブッとバックスは思い切り吹き出した。思わず目を丸くしてアリシアの顔をしみじみ見つめる。
「やぁね、したのはキスだけよ」
「それを先に言え……」
バックスは、言いよどんで片手で口を覆った。
「だから思ったって言ったでしょ。キスしたら物凄い驚かれちゃって。助けてくれたのは守ろうとかそんなんじゃなくて、単純に正義感だったんだって気付いたわ。でも、それ以来どんな兵士でもフォースの姉だって言えば……」
アリシアは大きくため息をつく。
「私、ずっと甘えていたのよ。重荷だったと思うわ。謝りたくて」
バックスはホッとしたように肩を落とし、アリシアに微笑んだ。
「そんなこと気にする必要はないだろ。ルーフィス様もそうだが、フォースの名前も半分呪文みたいなモノだ。彼らが笑っているうちは大丈夫だって軍でも言うからな。君一人くらいフォースはへとも思ってないだろ」
言いながらバックスは吹き出しそうになるのを堪えている。それに気付いたアリシアは、眉を寄せて目を細めた。
「んもう、ちょっとっ。なによ」
「いや、そんなことよりキスの方がよっぽど」