レイシャルメモリー 2-10


 フォースは笑みを浮かべようと努力はしたが、すぐにあきらめて言葉をつなぐ。
「まぁ、今は何を考えても意味が無いよな」
 そう言うと、フォースは様々な思いを振り払うかのように両腕を上げてノビをした。そして、いつの間にかすぐ後ろにいたリディアに気付く。立ち上がろうとするフォースの肩に、リディアは両手を置いた。
「座ってて」
 リディアはフォースの肩口から顔を出すと、サーペントエッグを持った手を鎧の内側に差し入れた。フォースはその手を意識して身動きできなくなる。
「ちゃんと持っていて。フォースのお母様のことでそれだけの兵を動かせる人だもの、半分が敵だなんてこと、きっとないわ」
 柔らかな声がフォースの頬や首を撫でていく。パチッと金具が掛かる音に心臓がはねた。リディアは空になった手をもう一度肩に置くと、反応も返事もないフォースの顔をのぞき込む。
「フォース?」
「硬直してる? 息のしかた覚えてるか?」
 グレイは笑いをこらえながら、フォースの目の前で指をちらつかせ、リディアに視線を向けた。
「ね? 言った通り文句なしに受け取っただろ? ちょっとエッチだけど」
 フォースはギョッとしたようにグレイに目をやり、リディアは上気した頬そのままに、フォースに頭を下げる。
「ご、ごめんなさいっ」
「い、いいんだ、いいんだけど、もう二度とこいつの言うことは、はなっから信じちゃ駄目っ」
 フォースに指を刺され、グレイは思い切り吹き出すと、腹を抱えて笑い出した。
「グレイ、てめぇ……」
 フォースはゆっくりとグレイを振り向いて睨みつける。
「だって持ってなきゃ駄目だろ、それ」
「そうじゃなくてっ」
 食ってかかったフォースに、グレイは必死に笑いをこらえて口を開く。
「始終一緒にいるのに慣れない奴だな。どうどう。仕事仕事」
 本など読めそうにないほど大笑いしながらグレイは一冊の本を手に取った。フォースはガタッと椅子から立ち上がり、開いてあった本を全部バタバタと閉じ始める。
「うわっ、なにすんだフォース!」
 全部の本を閉じてしまうと、フォースは拳を机に押しつけた。
「ちっともスッキリしない」
 顔をしかめたフォースの言葉に、グレイは苦笑を向ける。
「欲求不満か? それとも、詩を調べてるっての分かってやってる?」
「分かってる。だけどその詩も女神のことも何もかも、全部意味がない気がして」
 フォースはさらに眉を寄せて唇をかんだ。グレイはフォースから視線をそらし、顔をゆがめる。
「行くって決めたのか」
「ああ。決めた」
 そう返事をして、フォースは後ろでリディアがうつむいたのを気配で悟った。

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