レイシャルメモリー 3-04


 フォースは真剣な瞳をタスリルに向けた。リディアはその後ろで視線を落としてはいるが耳を傾けている。タスリルは、色々眺めてまわっているティオにチラッと視線を走らせてから、フムとうなずいた。
「いいよ。知っていることは教えてあげよう。私はエレンが好きだったからね」
「母を? ご存じなんですか?」
 タスリルは、そうだよ、と、微笑みを浮かべながら答える。
「エレンの側にいたんだ。当時、神の守護者と呼ばれる一族の薬を作れるのは、私だけだったしね」
「薬ですか?」
 目を丸くしたフォースに、タスリルは微笑を向けた。
「私が薬屋だってことくらいは、ジェイから聞いただろ? 一族の薬とお前さんのとは、また別なんだ。酒に酔うんだろう?」
 タスリルの質問に、フォースはハイとうなずく。
「彼らには酒は水でしかないんだ」
 そうですか、と、フォースはいかにも残念そうに苦笑した。だが、母と知り合いなら色々な話を聞けるだろうという期待が、胸にわいてくる。
「その神の守護者というのは、一体なんなんです?」
「詳しいことは知らないが、シアネル側ディーヴァの山間に暮らしているそうだよ。なんでも、文字通り神を護衛する役目を担っているらしいんだが。神と対話ができると言われているね」
 フォースには、護衛という言葉が妙に不自然に聞こえた。神を人間が一体何から護衛するというのだろうか。答えを得られないのがもどかしいと思う。
「母も神と話をしていたんですか?」
「それは知らないね。聞いたことがないよ。お前さんもできるんじゃないのかい?」
 タスリルはフォースを見上げながら問いを返した。
「伝えてくる言葉は分かるのですが、話が通じているのかは、さっぱり」
「それでいいんじゃないのかい? 相手は人ではなく神なんだからね」
 そう言って笑うと、タスリルは微笑みを自分の回想に向ける。
「お前さん、小さな赤ん坊だったのにねぇ。エレンはよく、この子は私の力だって、フォース、と呼びかけていたものさ」
「え……?」
 フォースは気の抜けた声を出すと、キョトンとしたリディアと顔を見合わせた。
「ねぇ、もしかしたら、フォースって名前……」
 呆気にとられているフォースとリディアを見て、タスリルは朗笑する。
「ただのあだ名だよ。そういや、こっちではフォースと呼ばれているそうだね。エレンが呼ぶのを聞いて、誰かが名前と勘違いしたんだろうね」
 フォースは誰かがと聞いて、真っ先にルーフィスを思い浮かべ、ため息をついた。他には誰も思いつかない。タスリルはノドの奥でまだ笑っている。

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