レイシャルメモリー 3-05


「いや、その方がエレンも喜ぶだろうさ。綺麗な声で何度も、フォース、私の戦士、ってね。懐かしいよ」
 戦士という言葉にハッとして、フォースはタスリルに視線を戻した。タスリルは訝しげに首をかしげる。
「どうしたんだい?」
 フォースは、聞いていてください、と、タスリルに詩の言葉を向けた。
「火に地の報謝落つ、風に地の命届かず、地の青き剣水に落つ、水に火の粉飛び、火に風の影落つ、風の意志剣形成し、青き光放たん、その意志を以て、風の影裂かん。たぶん続きもあると思うのですが。なにか知りませんか?」
 目を閉じて聞いていたタスリルは、首を横に振る。
「いや、一節も聞いたことがないよ」
 そうですか、とフォースはため息をついた。だが、女神が言った戦士という言葉と示した詩が、女神という鍵でつながっているのではなく、自分の中に一つの事柄として記憶されていることに気付く。
「何のことだか分からんが、ヒントは他にもあるかもしれないよ。まぁ聞きな」
 タスリルは難しい顔をしたフォースの腕をポンと叩き、言葉をつなぐ。
「レイクスという皇太子の存在は、国民もみんな知っている。特別な位置付けで生まれてきた子だからね」
「王位継承権のことですか?」
 フォースの問いに、タスリルは手と首を同時に横に振る。
「それもあるんだが。もう一つ、神の子、と呼ばれていたんだよ」
タスリルに指を指されて聞いた神の子という言葉に、フォースは思わず眉を寄せた。
「神の子、ですか?」
「ライザナルの男神シェイド、シアネルの女神アネシスの子だそうだよ。正確には降臨を受けている物同士の子、ということになる」
 フォースは顔をしかめたまま、人間同士じゃないかとつぶやき、首をかしげる。
「母はシアネルの巫女だったんですか? クロフォードも降臨を」
「エレンは巫女だったよ。だが皇帝は違う」
 こともなげに言ったタスリルに、フォースは思わずリディアと顔を見合わせた。タスリルはフォースとリディアを交互に見ながら、言い含めるように言葉にする。
「神の子を宿して王家に嫁いだ巫女が産んだ、ってのがお前さんだよ」
 リディアは、表情を曇らせてうつむき、フォースは呆れたように両手を広げる。
「それじゃあクロフォードの子ではないですよね? なぜ王位継承権があるんです?」
「神の子は王家の人間と婚姻関係を結ぶ決まりになっているんだ」
 フォースは、決まりという言葉を拾ってつぶやき、不機嫌に首を横に振った。タスリルはフォースの顔をのぞき込む。
「それに、神の子を宿したと言っても、時を置かずに皇帝とも情交させられれば、どちらの子かなんて分かりゃしないだろ」

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