レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第1部4章 事実の深奥
4. 言えない言葉 01
術師街の路地を出た表通りは、家路につく人が少しずつ増え始めていた。リディアとティオは、ファルを交えて何か話しては笑い声を立てている。いつもと変わらないその様子が、フォースには救いだった。
ライザナルでの立場が神の子という道具でしかないのなら、むしろ気が楽かもしれないとフォースは思った。そんなモノをいくら蹴っても、罪悪感は起きない。血だの愛だの言われる方が、慣れがないだけ面倒だと思う。
それにしても、メナウルでは女神に反発を覚え、ライザナルでは神に刃向かおうなんて、どこをとっても神の守護者などという言葉が当てはまりそうにない。半分が違う血だからかと思うと、やたらと気が重くなる。
だが、純粋な一族でない自分を、シャイア神だけではなく母までもが、戦士と呼んだのはどうしてなのだろう。それはそれでまた何か意味があるのか。前にあった時に言葉を濁したジェイストークは、それを知っているのだろうか。聞いたところで、答えがまっすぐ返ってくるかも分からないのだが。
ふとリディアが立ち止まり、後ろを歩いていたフォースと肩を並べた。もうすぐ神殿という場所だ。ティオは変わらず前を歩いている。
「ゼインさん、いるのかしら。なんだか苦手なの」
そういうことかと、フォースはリディアに苦笑を向けた。
「正面か裏か、いない方から入ろう」
フォースの言葉に、リディアはホッとしたように微笑みを浮かべ、フォースの腕を取った。
神殿が近づくにつれ、敷地への入り口が見えてくる。そこでゼインが鐘塔を見上げているのが目に入ってきた。フォースとリディアは顔を見合わせて苦笑を交わしたが、その場所は避けることができない。そのまま諦めて近づくと、ちょうど中からバックスがゼインに駆け寄ってきた。
「なにやってんだよ、こんなとこで」
「なにって、あ」
ゼインは、フォースとリディアを見つけると、フォースに不機嫌な顔を向ける。
「巫女様なんだから、あんまり連れ歩いたりするなよ」
ゼインが向けたぶっきらぼうな言葉に、フォースは反論しようとしたが、それより先にリディアが口を開いた。
「ごめんなさい。私が無理を言って連れてってもらったんです」
顔をしかめたゼインの肩に、バックスが手を置く。
「あのな、フォースはそのためにいるんだろうが。持ち場を離れてフォースに迷惑をかけているのはゼインの方なんだぞ?」
ゼインはムッとした顔で敬礼のような半端な挨拶をすると、神殿正面へと歩いていく。その後ろ姿に、バックスは肩をすくめた。
「あいつ、なに考えてるんだか」
「ごめん、俺がなんとかしなきゃな。だけど、これだけあからさまに反発されると、なにを言っても効き目なさそうだ」
フォースは思わず言葉尻にため息をつく。
「そりゃ、フォースの方にいつもの元気がないからだろ」
バックスの心配げな顔に、フォースは虚をつかれて視線を返し、それからそうだなとつぶやいた。自分のことに精一杯で、周りが見えていないかもしれないと思う。バックスは神殿の中に入れとフォースの背中をバンと叩いた。