レイシャルメモリー 4-02


「ま、ゼインのところは育てなくても立派にやっていける兵士が揃っているからな。心配いらない」
 慰めになるかならないか分からない言葉に苦笑を返し、フォースはリディアを促して裏へとまわった。ティオが先に扉から駆け込んでいく。
 中に入ると、お気に入りのソファーにバフッと寝転がったティオが見えた。部屋の左、食堂のテーブルの角からグレイが手を振っている。横にいたユリアも顔を上げた。テーブルにはいつもの本の他に、シロップ漬けのチェリーが盛られた皿が置かれている。
「収穫はあったか?」
 口をモゴモゴさせたグレイの問いに、フォースは微苦笑した。
「思ったよりはね。口に入れたまましゃべるなよ」
 違う違うと手を横に振るグレイの側まで行って、フォースとリディアは皿をのぞき込んだ。
「これ、マルフィさんが作ってたシロップ漬けだわ」
「なんだ、酒に漬けたんじゃなかったのか」
 フォースのいかにも残念そうな声に、リディアはクスクスと笑い声を立てる。グレイが手のひらの上に口から何かをはき出し、フォースは思わず一歩引いてからその手をのぞき込んだ。リディアもフォースの横から顔を出す。そこにはキレイに結ばれたチェリーの茎が一本あった。
「何かと思ったら、また小器用なことしやがって」
 そう言ってため息をついたフォースに笑みを向けてから、グレイはユリアに親指を立てて見せた。リディアは不思議そうにグレイの手の上を見ている。
「これ? 口の中で舌を使って結ぶんだよ」
 グレイはリディアにそう言うと、手にした結んだ茎を種の入ったもう一つの皿に移し、実から茎をプツと取ってリディアに差し出した。
「やってみる?」
「マズそうだ」
 フォースは顔をしかめながらその茎を見ている。
「食えとは言ってないだろ。けど、生々しいキスを想像しちまうからやめとくか」
 グレイは、その茎を種の皿に入れ、ケラケラと笑った。少し反っくり返ったせいで、リディアが眉を寄せているのに気付き、その顔を見上げる。
「どうしたの?」
「キスと舌が器用なことって、何か関係があるんですか?」
 リディアの言葉に、フォースはブッと吹き出し、頬を挟むように口を押さえた。ユリアは呆れたようにため息をつき、グレイは笑いを堪えながらフォースの顔をのぞき込む。
「フォース? もしかして、まだ実践してなかったのか?」
 口元を手で隠したまま目を合わせたフォースに、グレイは冷笑を向けた。リディアはその様子に、ただキョトンとしている。
「知りたいって。よかったな。教えてやれよ。それともホントに不器用だったりして」
 クックと笑っているグレイに、フォースは恨めしげに目を細めた。
「抑制できなくなったら責任取ってくれるのか?」
「いや、そんな趣味ないから邪魔するの怖いし」

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