レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第1部5章 決意と約束
2. 決意 01
「え? 行方不明?」
フォースは、神殿裏の扉から顔を出したバックスと向き合い、聞き返した。バックスは斜めにうなずく。
「って言い方も変かもしれんが。鎧は部屋にあるらしいし、ゼインの奴、一体どこをほっつき歩いてんだか」
両腕を広げた呆れ顔のバックスに視線を向けたまま、フォースはハァとため息をつく。
「警備の穴は?」
「よくできたゼインの隊の兵士が、自主的についてくれてるよ」
バックスの言葉にフォースは、情けねぇなとつぶやいた。
「探してくれるか? あと神殿回りの点検も。最近あからさまに突っかかれてたから気になるんだ」
「了解。ってか、もう始めてるよ」
バックスはフォースに敬礼を向ける。フォースは返礼しながら眉を寄せた。
「戻ったら謹慎……、って、喜びそうな気もするな」
「違いない」
鼻で笑ったバックスに、フォースは苦笑を返す。手を挙げただけの挨拶を交わし、フォースは扉を閉めた。
フォースが振り返った食卓テーブルには、いつものように本を広げているグレイと、少し前からサーディとスティアが席についている。テーブルで湯気を立てる紅茶は、まだ充分に熱い。
「いまさら驚くことでもないでしょう?」
スティアはフォースに苦笑して見せた。
「反戦運動をしてるって表明するだけのことなのに、こんなに反対されるとは思わなかったわ」
フォースは無言のまま、サーディの隣の椅子に座った。サーディは苦笑したままフォースを見ている。
「お前のことだから、絶対怒ると思ってたよ」
「当たり前だ」
思いのほか無表情なフォースの顔を、サーディはのぞき込んだ。
「別に騎士の仕事が減っても、お前を首にしたりはしないから」
「なにもそんなことは心配してない」
フォースは頭を抱えて呆れたようにため息をつく。反応があってホッとしたのか、サーディはのどの奥で笑い声を立てた。
「いや、分かってるけどさ。俺だって心配なんだぞ、お前のこと」
「まさか、そんなことで反戦だなんて言い出したんじゃ」
フォースが向けたキツイ視線に、サーディは慌てて首を横に振る。
「いや、大丈夫、違うって。だけどこの気持ちが、お前に分からないはずはないだろう?」
フォースは返答に困って眉を寄せた。考え込むように視線をそらせてから、あらためてサーディと向き合う。
「でも、俺がやるのとサーディがやるのとじゃあ訳が違う。俺は単にそういうやり方の騎士で済む。だけどサーディは、国民の半分を敵に回すことになるんだぞ?」
「半分? でも、城都の人間は戦をしていることすら忘れて暮らしてる。実際は半分もいないさ。戦が余計なモノじゃなくてなんなんだ?」