レイシャルメモリー 2-02


「そういうことを言っているんじゃ」
 頭を掻いたフォースの肩を叩いて、サーディは屈託無く笑う。フォースはもう一度ため息をついた。
「笑い事じゃないんだって。くそっ、こんな時じゃなきゃ俺が……」
「護衛してくれるって? でも、こんな時だからな。お前だってシャイア神の護衛の方がいいだろ」
 サーディの言葉に、フォースは思わず顔をしかめた。サーディが眉を寄せる。
「もしかして、やりたくなかったのか?」
「いや。やらせてもらえて感謝してるよ」
 フォースは目を怒ったように細め、口元に微苦笑を浮かべた。サーディはフォースの様子に肩をすくめる。
「難しい顔で感謝なんてするなよ」
 フォースは返事をせず、サーディから顔を背けるようにグレイを見やった。
 フォースには、女神を守ろうなどという気持ちはさらさら無かった。リディアを守っているのだと、自分をごまかしながら仕事を続けているのだ。知っているはずのグレイは、素知らぬ顔で本に目を落としている。
 スティアがキョロキョロと部屋を見回す。
「ところでリディアはどこ?」
「食事を作るのを手伝うって、厨房に行ったっきりなんだ」
 そう言うと、フォースは立ち上がった。
「悪い、ちょっと見てくる」
「いってらっしゃぁい」
 スティアが嬉しそうに手を振るのを横目で見ながら、フォースは神殿へと続く廊下へ入る。いくらも進まないうちに、リディアを支え、ティオを連れたアリシアと鉢合わせになった。
「リディア? 具合でも悪いのか?」
 フォースに心配げな声で名を呼ばれ、リディアはゆっくり顔を上げる。リディアはフォースを見つけると、満面の笑みを浮かべて抱きついた。
「フォース、どこ行ってたの?」
「え? ど、どこって、今リディアを探しに行こうと思って……」
 フォースは、抱きとめた腕の中から見上げてくるリディアと顔をつきあわせ、眉を寄せた。アルコールの臭いがする。
「酒?」
 フォースはアリシアを睨みつけた。ティオまでが妙な笑い声を立て始める。アリシアは乾いた笑いを漏らした。
「ごめん、リディアちゃんが、こんなに弱いなんて知らなくて」
「てめぇ、これ、弱いとかって量じゃないだろ? なんてことを!」
 アリシアを睨みつけたフォースの鎧を、リディアは揺するように引っ張る。
「てめぇなんて言っちゃダメよ。怒っちゃイヤ」
 フォースはウッと言葉につまった。頬をふくらませて見つめてくるリディアに、フォースは思わずゴメンと謝る。アリシアが貼り付けたような笑顔を作った。
「じゃ、よろしくね。仕事に行くわ」
「なっ?! ちょっと待てよ、今頃仕事って」
 ごめんねぇ、と手を振りつつ、アリシアは廊下を神殿側へと消えていった。ティオは何が可笑しいのか、まだケラケラと笑っている。フォースはアリシアを茫然と見送り、ふとリディアの潤んだ瞳がじっと自分を見つめているのに気付いた。

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