レイシャルメモリー 2-03
「な、なに?」
「もっと飲みたい」
「俺も!」
賛同するティオに冷たい視線を向け、フォースは、身体中の力が抜けるほどのため息をつく。
「もう駄目だ。横になった方がいい。普通に歩けないだろ?」
「そんなことないもん」
リディアはフォースの横を通っていくらか進んだが、部屋に出たところでペタッと座り込んだ。スティアが駆け寄ってくる。
「どうしたの?」
「フォースが、もう駄目だって言うの」
リディアは顔を上げずに、つぶやくように答えた。
「何が駄目なのよっ?!」
スティアは、リディアの手を引いて立たせようとしたフォースの耳元で文句を言う。フォースは、眉を寄せてスティアに視線を向けた。
「もう飲むなって言っただけだ」
その言葉で、スティアはリディアがしこたま酔っていることに気付き、冷めた笑い声をたてた。グレイとサーディは、部屋の隅で笑いをこらえている。フォースはリディアの背に左腕を回し、膝の下に右手を差し入れて抱き上げた。
「とにかく休め」
「イヤッ、降ろしてっ、眠たくないのっ」
リディアが鎧に手をついて突っ張り、足をばたつかせたので、体制が崩れる。その不安定さにリディアが悲鳴を上げて首に抱きつき、スティアが反対側から支えたので、フォースはなんとかひっくり返らずに耐えることができた。サーディが、危ねぇ、と幾分顔を青くしてつぶやく。乾いた笑いを浮かべるスティアに、フォースはありがとうと礼を言って微苦笑した。
「一度眠らなきゃ駄目だ」
フォースはリディアに言い聞かせるようにキッパリと言った。リディアはフォースの首につかまったまま口を尖らせる。
「もおっ。意地悪、ひとでなし、わからずや、意地っ張り、野蛮人」
ハイハイと、ため息混じりの返事をしながら、フォースは階段へ向かった。ティオは口を尖らせながらも後からついてくる。サーディがいってらっしゃいと手を振り、グレイが背中を向けて笑っているのが目に入り、フォースは二人に微苦笑だけ向けて、階段を上がった。
ティオが、ほんの少し開けて止めていたストッパーを外し、ドアを大きく開く。フォースはリディアを抱き上げたまま中に入った。ティオはドアを閉めると、毎晩寝ている場所であるベッドの下へ、スルッと潜り込んで視界から消える。開いている窓から、緩やかな風が入ってきた。
フォースはリディアをベッドに降ろしたが、リディアはフォースの首から手を離さなかった。予想していなかった力に引っ張られ、リディアの上に倒れそうになる。フォースは、ベッドについたつもりだった右手を押し返してくる柔らかな弾力に驚き、慌てて奥に場所を変えて身体を支え直した。
「ごめんっ! お、俺、今?!」
「胸つぶしちゃイヤ。おっきな声もイヤ」