レイシャルメモリー 2-05
「側にいて。お願い……」
リディアの瞳から涙がこぼれる。ベッドに腰掛けて左肘をつき、添い寝するように体勢を低くすると、フォースは右手で琥珀色の髪を撫でた。リディアは、不安げに繰り返す呼吸ごと、フォースの名前を口にする。フォースの中の愛しいと思う気持ちが、身体を突き破りそうでひどく息苦しくなってくる。フォースはリディアの薄く開いた唇に口づけた。
息苦しさの逃げ道を見つけられず、キスが深くなっていく。髪を撫でていた手で、リディアの存在を確かめるように、そっと身体をなぞる。鎧の内側で、サーペントエッグが冷たい音を立てて転がった。
リディアのノドの奥から苦しげな声が漏れた。嫌がっているのかと、フォースが恐る恐る唇を離すと、リディアはハァと息をはき出してゆっくりと瞳を開き、フォースを切なげに見上げる。
「待ってる」
リディアは幾分かすれた声でつぶやいた。
「でも、もしフォースが皇帝になっちゃって戻れなかったら……」
何か言わなければと口を開きかけたフォースの唇に、リディアは指先を当てる。
「私、巫女のままでもいいからライザナルに行く」
「ええっ?! だっ、駄目だ、嫌だ、リディアは誰にも渡さない。降臨を受けているんだかなんだかしらないが、他の奴がリディアを抱くなんて」
フォースは思わず声を大きくし、リディアの肩をつかんだ。そんなことをしたら、母親であるエレンと同じ目に遭わせてしまうかもしれないのだ。リディアは、とろんとした目を丸くして、フォースの声に驚いている。
「おい! 自分が何言ってるのか分かってるのか?」
リディアはノドの奥で楽しげに笑いだし、自分の肩を揺らすフォースに、その微笑みを向けた。
「じゃあ迎えに来て。降臨解いてから連れて行って」
その言葉に息をのみ、フォースはリディアの笑顔をじっと見つめた。自分の顔が赤くなってくる気がしてベッドを降りて立ち上がり、リディアに背中を向ける。
ふと気になってひざまずき、フォースはベッドの下をのぞきこんだ。ティオは子供の姿のまま、手足を大きく投げ出して眠っている。リディアを守るというのなら、どうして起きてこないのかと苛立ち、眠っていて邪魔をされないことに安心する。
「フォースったらエッチなんだから。そんなところのぞいたりして」
リディアが半身を起こして上から見ていたことに、フォースは声をかけられてはじめて気付いた。
「はぁ? これでそんなこと言うなら、さっきの手、止めろよ」
フォースはため息をつき、立ち上がった。いつもなら酔っぱらいなど適当にあしらって相手にしないのだが、その酔っぱらいがリディアだと勝手が違いすぎる。どうしてこう一つ一つの言葉をバカ正直に受け止めてしまうのか。
リディアは手を伸ばし、鎧のネックガードをつかんで引き寄せようとする。