レイシャルメモリー 2-07
「フォースだってそう思ってただろうが。駄目だ嫌だって、駄々っ子みたいで可愛かったぜ」
引きつった顔でウッと言葉につまったフォースと向き合い、バックスはフォースの両肩をバンバンと三度叩いた。
「フォースったらエッチなんだからぁ。なぁんて、黙っててやるから一つ教えろよ」
「それ、ベッドの下をのぞいただけだし」
そう言うとフォースは苦笑した。バックスはにやけた笑いを見せる。
「嘘はいけないなぁ」
「ホントだって」
「じゃあその後の、これでそんなこと言うなら、さっきの手、止めろよ、ってのは?」
ブッと吹き出して、フォースは口を覆った。バックスはもう一度フォースの肩を叩く。
「責めてるワケじゃないよ、詳しくは聞かないから安心しな、青少年」
「そんな脅される程のことは……。それにしても、バックスってこんなに物覚えよかったっけ?」
任せろと、自分の胸をドンッと叩き、バックスは満面に笑みを浮かべた。
「で? 教えろってなにをだよ」
フォースは肩をすくめながらため息混じりに言い、バックスを見上げる。
「アリシアさんのこと、どう思ってるんだ?」
「姉」
即答、一言ですませたフォースの顔を、バックスがのぞき込んだ。
「それだけか? じゃあ、昔はどう思ってたんだ?」
「そんなこと、どうでもいいだろ」
苦笑したフォースの耳元に、バックスは口を寄せる。
「聞いたんだよね、昔々、アリシアさんがフォースにしたキスのこと」
「はぁ? なんでまた今更そんなことを……」
フォースは、大きなため息をついた。バックスはフォースと顔をつきあわせる。
「それで、もしかしたら何かあったとか?」
バックスの言葉に、フォースは突き合わせた顔の前の狭い空間で手を横にヒラヒラと振り、こともなげな顔で口を開く。
「なんにも。そのキスで俺は思いっきり意識したんだけど、日を開けずにボーイフレンドだ恋人だって家に連れてきてさ。結局は体よくフラれたんだ。了解?」
「聞かなきゃよかったかな」
腕組みをして考え込んだバックスに、フォースは眉を寄せた。
「ワケわかんねぇ。アリシアが気になるのか?」
「好奇心。追求するなよ、追求するぞ」
バックスに指をさされ、フォースは肩をすくめて苦笑する。
「だからキスくらいしかしてないって」
「キスくらいだとぉ?」
しまった、とフォースは頬を挟むように口を覆った。バックスは、フォースの予想に反し、真面目な顔で向き合ってくる。
「そういえば、十四の時にいかがわしい店に誘ったら自分が脱ぐのは嫌だとかって断ってたけど、リディアさんの前なら平気なのか?」
「……、余計なお世話だ」
そう言うと、フォースはサッサとバックスに背を向け、その場を後にした。