レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第1部5章 決意と約束
3. 決意 01


「仕事じゃなかったのか」
 階段の上から冷ややかな声が響いた。テーブルの隅に落ち着いて話をしていたサーディ、グレイ、スティア、アリシアの四人が階段を見上げる。そこにフォースを見つけ、アリシアは平たい笑い声を立てた。
「勘違いだったみたい」
 フォースは階段の途中で一度だけアリシアと視線を合わせ、後は知らん振りで下まで降りる。アリシアは、部屋の中央でフォースと向き合った。
「リディアちゃん、何か言ってた?」
「いや、別に」
 フォースの返事に、アリシアは訝しげな顔をする。その表情を見て、フォースは視線をそらして苦笑した。
「ありがとう」
「えっ? 何? 何がありがとうなのよっ」
 アリシアは、慌ててフォースと顔をつきあわせる。
「何って。そんなのどうでも」
「よくないわよっ! 何も言われていないのにありがとうって、あんたリディアちゃんに何かしたんじゃないでしょうね?!」
 アリシアの大きな声の後に、ノックの音が聞こえた。フォースはアリシアの横を通り過ぎて、外へ続く扉へと向かう。
「ちょっとっ」
「客」
 一言だけ答えると、フォースは笑いを堪えながら扉まで行った。微かにルーフィスの声が向こう側から聞こえ、少しもためらうことなく扉を開ける。ルーフィスの向こう側に立っている大柄な人間が視界に飛び込んできて、フォースは目を見張った。
「ナルエス?!」
 鎧こそ身に着けてはいないが、短く切りそろえたダークブラウンの髪と緑色の瞳に、フォースは見覚えがあった。反戦の意志を持つライザナルの騎士で、ナルエスという男に間違いない。ナルエスはフォースを見るが早いか、その場にひざまずいた。フォースの様子をうかがっていたルーフィスは、納得したようにうなずいた。
「知人か。説明は要らんな」
 その言葉に視線を合わせ、フォースは自分を落ち着けるように低く息を吐き出した。ナルエスが何をしに来たのか、容易に想像はつく。
「レイクス様、陛下からの親書をお持ちいたしました」
 ナルエスは一通の封書をうやうやしくフォースに差し出した。その声に部屋の隅で話をしていたサーディが立ち上がり、椅子がガタッと音を立てる。
「お受け取りください」
 ナルエスが差し出した手から、フォースは封書を受け取った。
「わざわざここまで……」

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