レイシャルメモリー 3-02


「親書です。直接お渡しできなければ意味がありません。もとより命に替えてもお届けする覚悟でしたので、お気になさらず」
 頭を低くしたナルエスに、フォースは困惑したように顔をしかめた。
「こんなモノ、人づてになろうが中身には変わりないだろう。そんなことより、向こうでの知り合いが減る方が俺には痛いんだ、命に替えてもだなんて無茶はしないで欲しい」
「ありがたきお言葉、感謝いたします」
 ナルエスが発した言葉の違和感に、フォースはため息をついた。気持ちが悪いほど丁寧に聞こえる。
「ライザナルに、戻っていただけるんですね」
 安心したように言ったナルエスに、フォースは苦笑した。
「行くよ。明日」
「フォース?! お前、そんないきなり!」
 思わず大声を出したサーディの腕を、スティアが抱えるようにして止める。フォースはサーディに親書をヒラヒラと振って見せた。
「こいつが来たら、行こうと思っていたんだ。どうせ期限切ってあるだろうし、数日延ばしたところで意味はないしな」
 フォースの言葉に、ナルエスは嬉しそうな微笑を浮かべると、服の内側からもう一通の手紙を引っ張り出した。
「もう一つ、ジェイストークからこれを言付かっております。明日なのですが」
「じゃあ、それに合わせて出るよ。合流してライザナルに入る」
「私の警衛をお許し願えますでしょうか」
 ナルエスの言葉に、フォースは心配げに眉を寄せた。
「だけど、今すぐ向こうに戻った方が安全じゃないか?」
「してもらえ」
 言葉を遮ったルーフィスを、フォースは驚いた目で見つめた。
「お前が彼を信頼できるのなら、護衛を頼むといい。何が起こるか分からんからな。逆に彼が無事にライザナルまで戻るためにも、その方がいいだろう」
 その言葉に納得し、フォースは素直にハイとうなずいた。ルーフィスはナルエスに向き直る。
「ただ、出歩かれては困ります。出発まで部屋に監禁させていただきたい。それでもよろしいか?」
 ナルエスは、笑顔を見せて頭を下げた。
「よろしくお願いいたします」
「では、こちらへ」
 ルーフィスは神殿の中にナルエスを通し、二階へと続く階段を上がりかけて振り返る。
「鍵はどこだ?」
「棚の一番上」
 扉を閉めながらフォースはそう返事をして、二人が二階の廊下へ消えるのを見送った。
「俺の部屋か」

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