レイシャルメモリー 3-03


 そう言うとフォースはノドの奥で笑い声を立て、固まったままのサーディとアリシアに見つめられていることに気付いて苦笑した。
 誰もが押し黙っている中、手にしていた親書を開封した紙の音が、フォースには妙に大きく響いてくる。
「本当に明日、行くつもりなのか?」
 無言で親書に見入っているフォースに、サーディが声をかけた。フォースは一呼吸の間だけサーディに視線を投げ、もう一度親書に目を落とす。
「俺が今日から五日以内にドナまで行けば、その日から十日以内にドナから撤退、一年間の休戦」
 サーディが眉を寄せ、不機嫌に顔を歪める。
「それ、リディアちゃんが降臨を受けているうちは一緒じゃないか。そんなモノは交換条件でもなんでもない。女神がいればドナは取り返せるし、ライザナルだって女神がいる間は無理に攻めてはこない。今の状況とどこが……、違うじゃねぇか!」
 サーディの声がだんだん大きくなるのを黙って聞いていたフォースは、サーディが最後に言い切った違うという言葉を聞いて、肩が落ちるほどのため息をついた。休戦はライザナルの人間とコンタクトをとるのには絶好の期間なのだと、サーディは気付いてしまったのだろう。
 サーディはフォースの前まで行き、疑わしげな目を向ける。
「お前、だから俺の反戦運動に反対したのか?」
「約束してくれ、サーディ。決して無茶はしないで欲しいんだ」
 危険度は格段に低くなるが、それでも危険には変わりない。フォースの真剣な瞳に、サーディは顔をしかめると舌打ちした。
「お前が一番無茶やってんだろうが」
「俺をメナウルにおいておこうなんて方が無謀だろ」
「無謀? その言葉、そっくりそのまま返してやるよ」
 サーディの投げやりな言い方に、フォースはムッとして眉根を寄せる。
「俺が残ったら、ライザナルとの関係は間違いなく悪化するんだぞ? サーディの立場で国のために人一人切り捨てられなくてどうするんだ」
「お前はそうやってライザナルの冷徹な皇帝にでもなればいいさ。まったく始めて話した時みたいな冷たい面しやがってっ」
 サーディがそっぽを向いて言った言葉に、フォースは、さも面倒臭そうにため息をついて見せる。
「何言ってる。いきなり絡んでくるような奴に、どうやって友好的な顔をしろってんだよ」
「普通、騎学にも行ってるって説明も無しに毎度学校を抜け出されたら、絡みたくもなるだろっ」
「おい」
 黙って聞いていたグレイが、低い声を出した。口をつぐんだフォースとサーディに冷たい視線を向ける。

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