レイシャルメモリー 3-04


「あのさ。恥ずかしいから、やめろ」
 ええ? とサーディがグレイに向き直る。
「だって俺、こんなバカな言い合いを本気でできる相手って、こいつくらいしかいないんだぞ?」
「悪かったな!」
 サーディに指を指され、フォースは吐き捨てるように言った。グレイは机を拳でドンと叩く。
「だから、やめろって。まったく、これでどっちも皇帝継ぐのか? どうせやるなら継いでからやってくれよ」
 グレイの言葉に、スティアが吹き出して笑い出し、アリシアは大きなため息をついた。
 ため息にノックの音がかぶった。
「アジルです」
 その声にフォースは扉を開けた。アジルは背は低いがガッシリとして、ロングソードを背負ったフォースの隊の兵士だ。
「どうした?」
「一応回りを見回ったのですが。路地を挟んで向こう側の家にあった長いハシゴが無くなっているという兵士がいるんです」
「ハシゴ?」
 アジルに聞き返し、フォースは自分ならそのハシゴをどう使うかと思い、天井を見上げた。もしもそのハシゴごと誰かが屋根の上に潜み、日が落ちるのを待っていたのだとしたら。フォースは身を翻すと、二階への階段を駆け上がりながら叫んだ。
「バックス! 部屋に入れ!」
 その声でバックスはドアを開けた。とたんに窓が破られる盛大な音がして、バックスの足元で何かがはじけ、部屋の空気が一瞬にして白く濁る。
「部屋の外に出ろ。出ないと巫女を刺し殺すぞ!」
 白いもやのようなモノが薄れはじめ、ベッドの下から半分出てきたまま倒れてしまったティオが見えた。そしてベッドの上に膝をついた人の形が浮かび上がってくる。
「早く出ろ!」
 その影はリディアの首に手を回して立たせ、胸に短剣を突きつけた。
「まさか、ゼイン?」
 顔を確認して、バックスはゆっくりと後退り、廊下まで出た。フォースの部屋にナルエスを閉じこめ鍵をかけたルーフィスが異様な様子に振り向くのと同時に、フォースが部屋の前にくる。
「ゼイン、お前っ?!」
「来るなよ、フォース。バックス、ドアを閉めな。今度少しでもドアの音を立てたら、降臨を解く前に刺し殺す。いいな?」
 ドアに手をかけるのをためらったバックスを見て、ゼインはリディアの胸に短剣を押しつけた。
「ま、待て、わかった、落ち着け。今閉める」

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