レイシャルメモリー 3-07
「廊下でフォースに会って、それから先が……」
「やっぱり」
リディアはコクンとうなずく。フォースは苦笑して、リディアの髪を梳くようになでた。
「飲み過ぎ。ちゃんと休んだ方がいい」
バックスと一緒に窓の外に首を出していたルーフィスが、フォースに目をとめて忍び笑いを漏らす。
「雨樋を登ったのか」
「他に手っ取り早い手段が思いつかなかったんだ、仕方がないだろう?」
ルーフィスのつぶやきに気付いて、むくれた顔で反論したフォースに、ルーフィスは微笑を向けた。フォースはその微笑みから目をそらし、一度大きく息をつく。
「あとのこと、頼みます」
フォースの言葉にリディアは息をのみ、顔を隠すようにうつむいた。
「今回のことは、俺のせいも多分にありそうだし、ゼインの奴、まるで誰かに使われていたような口ぶりで。裏に何があるのか分からないまま放っていくのは心残りなんだけど」
「決心は変わらんか」
ルーフィスのまっすぐな視線を受けて、フォースはハイとうなずき、頭を下げる。
「明日、行きます。よろしくお願いします」
「分かった。とりあえず事後処理だ。お前は明日まで護衛を頼む。バックスは屋根の上を片付けてくれ。私はとりあえず詰め所に行って兵の報告を待つ」
ルーフィスの言葉に、フォースとバックスが敬礼をする。ルーフィスは返礼を向けてからフォースに歩み寄り、ナルエスを閉じこめている部屋の鍵を差し出した。
「いいか。向こうへ行ったら、お前はお前のことだけを考えて行動しろ。今回のことがハッキリするまで、しばらくは私がリディアさんの護衛をする。こっちのことは何も心配は要らん」
言葉が出ずに、フォースはただ大きくうなずき、その鍵を受け取る。ルーフィスは、フォースの肩にポンと手を置いて、その手で頬に触れると、寂しさを隠した笑顔を残して部屋をあとにした。
バックスはそれを見ていないふりでベッドに寝ているティオに近づき、オイと声をかけて揺すった。ティオはボーっとした目をバックスに向ける。
「バックスぅ、煙、眠たくな……」
言葉の途中で眠ってしまうティオの言葉に、バックスはポンと手を叩く。
「もしかして、空気が白濁したのはティオを封じるための薬か何かだったのか?」
「下に移してくれるか? まだ部屋に残っているのかも知れない」
気力は感じられなかったが、とにかく口を開いたフォースの声に、バックスはいくらか安堵した。おう、と返事をして、ティオを抱きかかえる。