レイシャルメモリー 1-02


 そう、この嫌悪感はきっとそれだ。自分が逃げてしまったことを後悔しているのだ。ジェイストークにフォースを生かしておいていいのかと聞かれた時、行動に移すかどうかは別にしても、首を横に振っていれば、こんな思いを抱かなくても済んだかもしれない。
 目の前のアルトスが、扉の脇で礼をした神官二人に視線を向けることもなく神殿に入っていく。レクタードは、ジェイストークをうかがうように見てからアルトスに続いた。
 もしかしたら、フォースが来なければいいなどと思うのも、自分の甘えだろうか。フォースも自分と同じなのだと安心したいのかもしれない。
「ナルエスは戻ってないんだよね?」
 レクタードのつぶやくような声に、ジェイストークは微笑みを向けた。
「ええ、まだ。このあと予定がありますので、それに併せて戻るやもしれません」
「会うのか?」
 そう言ってしまってから、レクタードは慌てて口をつぐんだ。アルトスが立ち止まって振り返り、苦笑を浮かべたレクタードを一瞥すると、ジェイストークに視線を向ける。
「会いたいのか?」
 満面の笑みを返したジェイストークに、アルトスは不機嫌に眉を寄せた。ジェイストークは肩をすくめる。
「アルトスがいると、力ずくで連れ帰ろうとか、叩き斬ろうとか、そんな風に勘ぐられそうでな」
 その言葉にアルトスは一つ息をつくと、講堂へと入っていく。ジェイストークはレクタードと後に続きながら、その背中に声をかける。
「夜が明けたら出発する。陛下とは入れ違いになってしまうが。行くだろう?」
 アルトスの憮然とした視線に、ジェイストークはのどの奥で笑い声を立てた。レクタードはアルトスの反応だけで、ジェイストークに連いて行くのか行かないのかの判断はできなかった。だが、二人は納得したように話しをそこで切り上げる。
 神殿の講堂としてはあまり大きくない空間を、隅から隅まで使って祭壇が設置され、真っ黒な神官服を着た数人の男達によって、所狭しと並べられたロウソクに火がともされていく。その真ん中にくたびれた木棺と、装飾が華やかで真新しい棺が、並べて据え置かれていた。
 黒く長いローブの神官四人によって、新しい棺の蓋が開けられる。その蓋を、棺を乗せた台に立てかけるように置くと、古い木棺の蓋も躊躇することなく同じように開かれた。
 アルトスとジェイストークは、少しも臆することなく古い木棺に歩み寄った。レクタードは二人の半歩後ろで足を止め、思わず目をそらしたが、その視線の先の神官が笑ったように目を細くしたのを見て、慌てて棺に向き直る。木棺では、その蓋を開けた神官が亡骸を移す作業を始めていた。レクタードは遺体が気にならないように、ジェイストークとアルトスの反応だけに集中した。

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