レイシャルメモリー 1-04
「戻りました」
それだけ言うと、レクタードはジェイストークの横に再びひざまずこうとしたが、その腕を取り、クロフォードが引き留めた。
「無事で何よりだ」
レクタードは、クロフォードの腕に包み込まれた。小さな子供の頃のように抱きしめられる。いくらかの安心感と、横たわる亡骸へのねたみのような感情が胸に広がった。だが、いつでも先にエレンとフォースがいるという立場を容認したのは自分自身なのだ。でも、それに逆らえば、この父を苦しめることになるのも間違いではない。
クロフォードは腕を解き、レクタードと向き合う。
「リオーネとニーニアはルジェナ城に滞在している。先に戻るか?」
レクタードはクロフォードと視線を合わせ、首を横に振った。
「いえ、待ちます」
その言葉にうなずくクロフォードを見て、レクタードは答えが受け入れられたことに安堵し、フォースのために残るのがいいと思ったからうなずいたのではないかと懸念を抱いた。
「私はしばらくここにいる。下がって良いぞ」
クロフォードの言葉に、レクタードとジェイストークは礼をして扉へと向かった。そこで立ち止まり、講堂へ向かってもう一度礼をするとその場をあとにする。
外に出ると、日が出始めていて、オレンジ色の光が真横から差し込んできた。まぶしさに顔を背けて視界が楽になったせいか気が緩み、レクタードは大きくため息をついた。ジェイストークが顔をのぞき込む。
「大丈夫ですか?」
「何が? 平気だよ。死体なんて、あまり見たくはなかったけど。ジェイもアルトスも父も、全然平気なんだな」
エレンとフォースの存在を差してたずねた答えがこれだった。ジェイストークは気付かぬふりを通すことにする。
「それは、そうですね。慣れもありますし」
ジェイストークは自分やクロフォード、アルトスが押さえている追慕の情をわざと感じられるような返事を口にし、微苦笑を浮かべた。レクタードは、ジェイストークが言葉にしなかった部分に、エレンに対しての気持ちがあることを察して顔をしかめる。
レクタードは、彼らにとって自分がすべてに二番目だったとしても、それでもかまわないと思った。今は自分を一番に置いてくれる人がいるのだ。でも、こんな風にスティアを特別だなどと思いたくはない。一番とか二番とかそういう問題ではなく、愛しているのだ。自分にはスティアしかいないし、スティアには自分しかいないと信じたかった。
「スティアのことも、反戦のことも、とても言える雰囲気ではなかったな」
レクタードがもう一度ついたため息に、ジェイストークは微笑する。