レイシャルメモリー 2-05


「フォースさんが可哀想。あなたってひどい人だわ。フォースさんと合うはずがない。結局は別れる運命だったのね」
「私たちは別れてなんていません」
「いつまでそんなことを言っていられるかしら」
 リディアには、ユリアが自分こそフォースにふさわしいのだと、自分で納得したくて必死になっているのが分かった。今まで抱いていた嫉妬心が跡形もなく消えていく。リディアは、人をおとしめて優位に立とうともがいているユリアが、哀れだと思った。そして。
「運命なんていつだって後ろにしか無かったわ。私はそんなモノ信じません」
 自分は運命などというモノではなく、フォースをこそ信じている。フォースが戻ってくるための道を必ず見つけると約束してくれたように、自分でも精一杯、フォースに近づける道を探そうと思う。選ぶのが整備された道でなくても、どこにでも足は踏み出せるのだから。
 しっかりと見つめてくるリディアの瞳を見返すことができず、ユリアは目をそらした。
「そんなことができるのなら、やって見せてご覧なさいよ」
 神殿への廊下へと足を向け、ユリアはあざけるような笑い声をたてると、逃げるように廊下へと消えていった。
「隊長に一生懸命なのは分かるんだがなぁ」
 アジルが大きなため息をつく。リディアはアジルに浅く頭を下げた。
「ごめんなさい。嫌な話を聞かせてしまって」
「とんでもない。リディアさんは悪くありませんよ。隊長がサッサとキッパリ断っちまえばいいんだ」
 アジルの言葉にリディアは苦笑した。ユリアがフォースに告白した時、リディアはドアを一枚挟んで聞いていたのだ。フォースが断りかけた時、ユリアは走り去っていった。その言いかけた言葉だけで、断られることは充分わかったのだと思う。
 その時フォースに考えておいてくださいと叫んだ言葉も、今し方リディアを悪者にしようとした言葉も、ユリアが自分で自分を守ろうとする欠陥だらけの鎧のようにしか、リディアには聞こえなかった。そして、今自分が泣いていないのは、ユリアに対して持っている意地のおかげかもしれないと感謝する。
「あの娘とリディアの想いは、全然違うよ。だって、想ってる相手自体が違うじゃない」
 ティオはニッコリ微笑んでそう言うと、意味が分からずキョトンとしているリディアの手を引いた。
「まだ少し早いから、上に行ってようよ」
「そうね」
 リディアは、ティオに微笑みを向けると、階段を上がった。アジルが後ろから付いてくる。

2-06へ


前ページ 章目次 シリーズ目次 TOP