レイシャルメモリー 3-02
ナルエスが、訝しげにフォースの表情をのぞき込んだ。
「どうかしましたか?」
「シェイド神はどこにいる?」
そう尋ね、フォースは反目の岩を改めて見やった。真っ二つに割れた岩の向こう側がライザナル、こちら側がメナウルだ。ライザナルに身体を向けて立ち、北西、つまり左前方の方向にあるドナの位置をイメージする。近づいているから声の大きさが変わっているのだとしたら、距離だけではなく方向も聞き分けられるのかもしれない。さっきの声は、どっちの方角から聞こえたのかと改めて思い返す。ファルの飛び去った方向を追ったすぐ後だったせいか、ここから少し左寄りの後方だと見当が付く。
「マクヴァル様なら、今頃はたぶんドナにいらしているはずですが?」
ナルエスの返事を聞き、フォースは気持ちを落ち着けようと大きく息をついた。
「ちょっとウィンを頼むよ」
フォースの言葉に訝しさを感じながらも、ナルエスは曖昧にうなずいた。バックスはウィンをナルエスに預け、フォースの側に立つ。
「何か気になることでも」
「シャイア神が近くに来てる」
フォースの苦々しげな顔を見て、バックスは思わず目を丸くして、慌てて表情を隠した。ちょうどウィンと話し込んでいたらしいナルエスを見やってから、バックスはフォースの耳に口を寄せ、地面を指さす。
「ここにか?」
「最終的にどこに向かっているかは分からない。でも、シャイア神の声が国境の方向に動いているのは確かなんだ」
フォースはそう言うとグッと口を結んだ。バックスは顔をしかめる。
「マズいな。捜すったってフォースじゃなきゃ、方向も何も分からんぞ。しかし、あいつらに何て説明する?」
フォースは振り向かずに気配だけで、ナルエスとウィンを追った。
確かに、説明のしようがない。ウィンは巫女を殺そうという気持ちをまだ抱えているらしいし、ナルエスもライザナルの人間だ、シャイア神に敵意を持っていないとも限らない。どちらにも、巫女を捜すなどと伝えることは危険極まりない。だが、探し当てるまではライザナルへは行けない。シャイア神が何と言おうと、リディアをライザナルへ行かせるわけにはいかないのだ。
「わけを話さずに、待ってもらうしかない」
「だけど、それで納得するか?」
「とにかく、そうするしかない」