レイシャルメモリー 3-03
お互い緊張した顔を見合わせ、フォースとバックスが振り返ると、ナルエスが姿勢を正したのが目に入った。ウィンも硬直したように動きを止める。その視線の先、木々の間からジェイストークが出てきた。ジェイストークを相手にしてわけを話さずに動くのはたぶん無理だ。フォースは小さく舌打ちした。
「方向が分かったら指示する。そっちへ」
その言葉に、バックスはうなずいた。フォースはバックスを後ろに従えたままジェイストークの方へと歩み寄る。ふと、視線の端を横切った黒い影が、ジェイストークの後方から姿を現した。フォースの持つすべての感覚が、そのダークグレイの鎧に釘付けになる。
「呼び出していただけて嬉しゅうございます」
ジェイストークは立ち止まってしまったフォースの前まで行き、軽く頭を下げると微笑みを向けた。その笑顔は前に見た時と寸分違わない。だが、その後ろに居るのは。
上背があり、ガッシリとした体躯。漆黒の瞳と肩までのまっすぐな黒い髪。前線で三度顔を合わせ、一度は剣も交えた。その強さは生半可なモノではなかった。その時に受けた左肩の傷の痛みが蘇ってくる。
「アルトス……?」
絞り出すようなフォースの声に、アルトスは無言で敬礼をした。
「そんなに驚かれなくても」
ジェイストークは、さも可笑しそうにのどの奥で笑い声をたてる。
「あなたは王位継承権一位の皇族です。アルトスにとっては第一にお守りせねばならない方なのですよ」
「建前はそうなんだろうけどな」
フォースが浮かべた微かな冷笑に、笑ったのか睨んだのか、アルトスの目がスッと細くなった。その視線がフォースから逸れてナルエスに確保された格好のウィンを捉える。ナルエスはアルトスに向き直った。
「解放するとのことでしたので、連れてまいりました」
ナルエスの手から離れると、ウィンはその場にひざまずいて頭を下げた。アルトスは数歩その方向に進み、ウィンの前で足を止める。その足元が見えたのか、ウィンが頭をさらに低くすると、アルトスは右手を剣の柄にかけた。カチャッと剣が音を立てるのと同時に、フォースは二人の間に割って入る。
「どうするつもりだ?」
ウィンの後頭部を見下ろしていたアルトスの視線が上がり、フォースを捉えた。
「不要だ」
抑揚のない声が、フォースの耳を打つ。フォースはその声を真っ向から受け止め、冷笑を向けた。
「ウィンがライザナルの人間だと分かったのは、ウィンが持っていた剣の癖があんたのモノだったからだぜ?」