レイシャルメモリー 3-04
フォースの言葉に、アルトスは一瞬だけウィンに視線を逸らし、再びフォースにきつい視線を向けた。確かにウィンに剣を教えたのはアルトス自身だった。それをフォースが一度剣を合わせただけで見抜いたのだとしたら。その時ウィンを斬らなかったのだ、その方針を変えたいとは思わないのだろう。アルトスは、フォースをか、それとも自身をなのか、嘲笑うように軽いため息と薄笑いを吐き出した。
「微塵も変わっていないようだな」
アルトスはゆっくり剣を抜くと、その切っ先に近い剣の腹で、フォースの左側からウィンの肩を叩く。
「失せろ」
ウィンに一言だけ投げると、アルトスはサッサと剣を鞘に納め、後ろに下がった。ウィンは立ち上がってアルトスに敬礼し、振り返ったフォースに微かな笑みを向けると、西の方向へと立ち去っていく。フォースは眉を寄せてウィンを見送った。相手が人間一人なら大丈夫だろうと思いつつも、シャイア神と鉢合わせにならないかと不安になる。
「あのような者をいちいち気にかけていたら保ちませんよ」
ジェイストークは、フォースがウィンを気遣っているのではと考えたようだ。フォースは内心、その勘違いにホッとした。何よりも、シャイア神が側にいることを悟られてはいけないと思う。フォースは思わず苦笑を浮かべた。
それにしても、シャイア神はいったいどこにいるのだろうか。いつもなら鬱陶しいその声も、今は聞かせて欲しいと強く願う。
どんな小さな音も聞き逃さないように澄ました耳に、キッキッとファルのするどい鳴き声が届いた。フォースは思わずその声の行方を見上げ、ハタとある考えにたどり着く。
ファルは普段、草原などの地面に近い部分まで空間のある場所しか飛ばない。それは蹴り落とした餌、小形の鳥などを拾うためだ。そのファルがこれだけ森の上を行き来しているというのは、とても不自然だ。きっとブラッドがファルを使ってシャイア神を追っているのだろう。空から見つけるのは困難かもしれないが、とにかく探していることは間違いなさそうだ。
「今日は、どのようなことを?」
ジェイストークはフォースの側に立ち、その表情をのぞき込む。視線を合わせると、フォースは短くため息をついた。
「本当はそっちでの立場とか、いろいろ聞きたいことがあったんだけど」
「けど? なんです?」
言葉尻を繰り返し、ジェイストークは僅かに首をかしげる。
「面倒だからサッサと行って、自分の目で見た方が早いと思って」
フォースの言葉に、ジェイストークの眉がピクッと跳ねた。
「今すぐに来ていただけるのですか?」
「ああ。早く行った方が早く帰れるだろ」
そう言って微笑んだフォースに、ジェイストークは思わず目を丸くして見入った。アルトスが憤慨に目を細める。