レイシャルメモリー 3-05


「帰るだと?」
 ――フォース――
 アルトスの声と同時に感じた意識は、すぐ真後ろを指し示していた。驚く間もなく、木々の隙間から虹色の光が八方にあふれ出る。その光と共に、シャイア神の意識がまるで滝のようにフォースの中に雪崩れ込んできた。その莫大な量の意識に押しつぶされそうになり、フォースはうめき声を上げて頭を抱え込む。あまりにも意識が大きいのか多いのか受け止めきれず、何を伝えようというのかが、まったく理解できない。
「大丈夫か?」
 後ろに控えていたバックスが、慌ててフォースを支えた。
「クッ、バカやろ、これじゃあさっぱり……」
 あたりにあふれていた光が徐々に薄れていき、それと共にフォースの中に流れ込んでくる意識も少なくなってくる。
「巫女か」
 アルトスの小さくつぶやいた声を聞き、フォースの背筋に寒気が走った。シャイア神が消えたら、そこに残されるのはリディアだ。アルトスの手が、剣の柄に伸びるのが目に入ってくる。
「逃げてくれ」
 フォースはバックスに向けてそう言うと、剣を抜いて駆け出そうとしていたアルトスの前に立ちふさがった。バックスが後ろの木々の間に入っていった音を背中で感じながら、自らも剣を抜いて構える。
「お前の国のためだぞ」
「国なんかいらない」
 黙って見つめるだけのジェイストークと、今にも前に踏み出しそうな二人に、ナルエスが慌ててアルトスを止めに入った。
「ちょ、ちょっと待ってください。レイクス様と剣を合わせようなどと」
「剣を合わせたところで怪我などさせん。巫女を斬って、こいつは無理矢理にでも連れて帰る」
 アルトスはナルエスを横に押しやると、一歩前に出てフォースと対峙した。
 確かに、前回剣を合わせた時は、そのくらいの力の差があった。だが、今は違うとフォースは思いたかった。あの時受けきれなかった剣も、同じ剣筋をバックスに覚えてもらってまで練習したのだ、今ならなんとかしてみせる。それがリディアを守るためならば、なおさらだ。
「随分大きなハンデを負ってくれるんだな」
 フォースは見下される腹立たしさに、アルトスを思い切り睨みつけた。フッとアルトスの頬が緩む。その笑みを浮かべたまま足を踏み出すと、アルトスは躊躇することもなく剣を薙いできた。フォースはその剣をしっかりと受ける。
 バックスがリディアを呼ぶ声がフォースの耳に聞こえてきた。まだ見つけていないのかと不安になる。ジェイストークが森に分け入るのが視界の隅に映った。
「よそ見するほどのハンデはやってないぞ」

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