レイシャルメモリー 3-06
アルトスの言葉にフォースは顔をしかめた。確かに半端な態度は危険なだけだし、リディアのこともバックスに任せるしか手はない。フォースは力を込めて受けていた剣を押し返した。
アルトスの剣から、ハンデなど微塵も感じられない攻撃が何度も繰り出される。剣筋に動揺も無く、その力も前の時より増していると思えるほどだ。フォースはアルトスの攻撃を受け流しながら、前に受けた予想できない方向に剣が流れる攻撃を待った。
そして。しっかり受けたと思った剣が右に流れる。待っていたのはこれだ。フォースは身体を右にひねり、その攻撃を流しながら押し返し、身体ごと押し入れた剣をそのまま左へと薙いだ。アルトスは体勢を崩し、すんでの所でフォースの剣を受け流す。そこにフォースはもう一歩踏み込んで突きを出した。その切っ先がダークグレイの鎧に当たり弾かれる。その突きでできたフォースの隙に、今度はアルトスが剣を薙ぎ入れた。フォースは剣身に身体を添えて攻撃を受け、その剣の力と勢いを利用して後ろへ飛び退く。フォースはアルトスが体制を整える間に、難なく剣を構え直した。
「お前……」
距離を詰めてくるアルトスの顔に緊張が増しているのを見て、フォースは剣を握り直し、気を引き締めた。さっきの一撃で、アルトスの攻撃にある程度対処できるようになっていることが、バレてしまっている。少なくともいくらかのダメージを与えておかなくてはならなかったと思う。
振り下ろされたアルトスの剣を受け流す。一つ一つの攻撃にさらに力がこもっているのか、フォースの腕にダメージが積み重なっていく。
フォースはイメージでも練習でも、剣が意図しない方向に流れる攻撃に対してなら、身体が勝手に動くほどシミュレーションを重ねてきた。だが、このままだと攻撃を受けるごとに腕の力が削がれていく。早めに何か仕掛けなければ負けてしまうだろう。何か手がかりはないかとフォースが周りの状況を窺った瞬間、背にしていた森の右側にリディアが姿を現した。
アルトスは目標を変え、リディアに向けて剣を振るった。薙ぎ払われた剣をフォースがギリギリで受け止めると、アルトスは反射的に短剣を抜いて反対側から斬りつける。フォースは身体をひねってリディアを庇い、その短剣をかわそうとしたが避けきれず、左上腕に細く赤い血の筋が走った。とたんに目の前がちらつきはじめ、全身を震えが襲う。
「きさま、毒を……」
フォースは耐えられずに両膝を付いた。アルトスはその言葉に息をのみ、手の中の短剣に目をやった。刃先が薄青い液体で湿っている。
「これは?! まさか……」
リディアを追っていたのだろう、ジェイストークとバックスも後から出てきた。その場の状況を目にしてアルトスと同様、凍り付いたように動きを止める。